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株式会社スプーン


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インタビュイー
大桑 仁氏 代表取締役社長/プロデューサー
1963年東京生まれ。成城大学経済学部卒業。1994年にスプーン入社。2016年10月より現職。現在もプロデューサーとして活動中。ロバート・デ・ニーロと松田龍平が共演した『dビデオ』のCMなど数々の名作を担当

プロデューサー集団が仕立てる“人を幸せにする”映像

プロデューサーとプロダクションマネージャーで構成された株式会社スプーンは、案件ごとにディレクターなど外部スタッフをアサインしてチームを編成し、クライアントの依頼に最高の形で応える少数精鋭のプロ集団だ。社員の半数を女性が占めるなど、柔軟な働き方を推進しながら映像の力を引き出している同社の取り組みについて、代表取締役社長の大桑仁氏にうかがった。(収録:2021年9月8日)
【 CM INDEX 2021年10月号に掲載された記事をご紹介します。】


— 貴社の特徴や強みをお聞かせください
 当社は今年で創設34年を迎える、社員50名程度のプロダクションです。CMやウェブムービーなどの広告映像から、映画、ミュージックビデオ、イベントまで、さまざまなコンテンツをプロデュースしています。社員はプロデューサーとプロダクションマネージャー、内勤スタッフというシンプルな構成であり、女性スタッフが半数以上を占めることも特徴だといえるのではないでしょうか。
 世界には優れた才能があふれています。だからこそ自分たちの体制はできるだけシンプルにしておき、クライアントの要求や課題に応じて最適なチームを組むことが最良の結果を生むと考えてきました。クリエイティブディレクターのプランを具体化するのがプロデューサーの仕事で、誰が担当するかでアウトプットの質は大きく変わります。言葉で表現するのは難しいのですが、プロジェクトへの向き合い方がポイントで、外部の方からは当社の印象として、性格が穏やかで映像やもの作りが好きな人物が大勢いるといった声を聞きます。私個人としても、社員一人ひとりが依頼された仕事に対して情熱と愛情を注いで誠実に取り組んでいると自負しています。
 女性比率の多さは意図したわけではなく、優秀な人材を採用した結果にすぎませんが、プロデューサーやプロダクションマネージャーはプロジェクトの中心に立って人と人をつなぎ、物事を回していく仕事ですので、コミュニケーション力や調整力が求められます。そういう点ではどちらかといえば女性に向いている仕事だと感じますし、実際に海外では数多くの女性プロデューサーが活躍しています。ただ労働環境などの課題もありますので、日々工夫をしながら業務を進めております。
— コロナ禍に見舞われる中でオンエアされた『ポカリスエット』のCMが注目を集めました
 昨年の「ポカリNEO合唱」篇※1は、当初は数百人の生徒を学校に集めて合唱をする企画だったのですが、ロケハンも終わり撮影の段取りがほぼ固まったタイミングでコロナ禍が深刻化し、予定通りの撮影が困難な状況となりました。そこで柳沢翔監督と話し合い、一人ひとりが自撮りして構成する方法があるのではと、すぐにビデオコンテを作成しました。それをクライアントにご覧いただき、企画が再スタートすることになったんです。リモートでの撮影は熱量を出すのが非常に難しく、キャストの方それぞれに対して企画のコンセプトをはじめ歌い方や撮影方法などの演出ビデオを柳沢監督と作り、その上で個人撮影をしていただいています。アウトプットまでのスピード感に私自身も驚きましたし、CMをご覧になった方を元気づけるというブランドの思いを形にできた実感がありました。今年の「でも君が見えた」篇は一転して巨大なセットで撮影しています。表現がまったく異なるものではありますが、大きな反響をいただけたことをうれしく思っています。

※1 大塚製薬/ポカリスエット「ポカリNEO合唱」篇
98人の生徒がそれぞれの自宅でCMソング『ボクらの歌』を歌う自撮り動画を用いて“ポカリNEO合唱”を完成させる内容。昨年4月7日より放送され、ニューノーマルを象徴するCMとして話題を呼んだ

高い技量と信頼感に裏打ちされた
作り手も受け手も幸せにする映像制作

 リモートというと効率的でコストも抑えられると思われるのですが、現場での撮影と同程度、あるいはそれ以上の労力を求められます。リモートで海外の映像を撮影したケースでは、現地のスタッフやキャストと意思疎通を重ねる必要があり、いざ撮影が始まると、カメラのアングルのエリアしか見られないため、現場であれば撮影できたかもしれない映像を諦めざるを得ないこともありました。また「お疲れさまでした」とパソコンを閉じるリモート撮影の寂しさと、数十人のスタッフとともに「OK」の声で緊張から解放される瞬間のカタルシスを味わえるリアルな撮影を思うと、現地での撮影を個人的には継続したいですし、そうした熱量の差は映像に表れると思っています。
 今の広告業界にはデータを分析して効果の高い映像を効率的に制作するという潮流がある一方で、長期的に企業やブランドの価値を高めていこうとする動きも出ています。後者の仕事ではあらゆる面で高い技量が求められ、実現までに多くのハードルを越えなければなりません。こうしたときに選ばれるプロダクションであるために、当社は「人の心に届く映像をワクワクしながら作ること」と「スプーンに関わるすべての人を幸せに」というふたつを大切にしています。広告である以上、人の心が動く映像でなければなりませんし、作り手がワクワクしながら取り組むことで、映像の質は高まるはずです。また自分たちだけが利益を得たとしても、周りが幸せにならなければ業界全体の活性化にはつながりません。社員やスタッフ、クリエイター、クライアント、我々のコンテンツに触れた方、広告を見て商品を手に取った方など、多くの人々の幸福を実現するために何ができるかを考える集団でありたいですね。
— 事業領域を拡大されています。今後の展望などについてお聞かせください
 広告のクリエイティブディレクターの方だけでなく、アーティストの方などからお声がけいただくことも多いため、意識的に領域を広げるというよりも、依頼を形にしてきたことで自然と仕事の幅が広がってきました。『ONE PIECE』の記念ムービー『WE ARE ONE.』やHuluオリジナルドラマ『息をひそめて』※2など、広告ではないこうした仕事の数々は当社のプロデューサーが大切にしてきた人とのつながりの中で生まれた仕事になります。
 今後について切実に感じているのは、映像業界の労働環境の健全化を進めていかなければならないということです。アジア諸国の多くは自国だけでは経済が回せないために自然と海外へと目が向き、それが国際基準の労働環境の推進につながってきました。日本は内需の国ですから国内ルールに則って映像が制作されてきたこともあり、その基準が国際標準にそぐわないことも少なくありません。少子化などの影響で経済規模の縮小が予想される中、日本の独特な商習慣を見直さなければ生き残ることが難しくなる。映像業界でいえば、韓国映画が世界的にヒットしていることや、日本を舞台にした映画が台湾で撮影されたことに大きなヒントや日本の課題があるように思います。
 映像はそもそも面白い世界ですので、労働環境を改善することで魅力的な人材が集まり、業界が活気づいていくはずです。また、あらゆる情報が可視化されるようになり、不都合な事実を隠せない時代ですので、企業の顔といえる広告は健全な環境で制作されなければなりません。だからこそスプーンは「関わるすべての人を幸せに」という思いの実現に向け、真摯に仕事に取り組み続けたいと考えています。

※2 huluオリジナルドラマ『息をひそめて』
監督・脚本の中川龍太郎氏ら各界で注目を集めるスタッフが集結し、斎藤工、夏帆、村上虹郎、安達祐実ら実力派俳優が出演。多摩川のそばで暮らす人々に光を当てた全8話からなるオムニバスドラマ