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vol.126 予告はその道のプロがつくるべし。


『PERFECT DAYS』2023年12月日本公開

ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男・平山の淡々とした日々を繊細に描いた。2023年、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で役所が日本人俳優として19年ぶり2人目となる最優秀男優賞を受賞した。

【主な制作スタッフ】
監督・脚本・プロデュース:ヴィム・ヴェンダース
共同脚本・プロデュース:高崎卓馬
企画・プロデュース:柳井康治
エグゼクティブプロデューサー:役所広司
プロデュース:國枝礼子/ケイコ・オリビア・トミナガ/
矢花宏太/大桑仁/小林祐介
 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の予告はものすごく構成がうまかった。「スピルバーグがまたやった!」からはじまり、気になる設定をしっかり伝えて、2時間で何を観ることになるのかをストレートに伝えている。今や誰もが知る映画だけど、何もない状態でどう期待値をあげていくか。「主人公がどんな困難に出会うのか」「さあどうする!?」と本当にうまくあおってくる。ストーリーを想像してしまうから、その答えがどうしても知りたくなる。見事だ。
 僕も予告編をつくる作業を何度もやってきたがこれが本当に難しい。なにしろ素材は映画に限られているし、映画にないものを勝手につくるわけにはいかない。映画に対する期待をつくるのが予告の仕事だけれど、ときどき期待さえつくればいいという不誠実なものを見かける。ぜんぜん恋愛要素なんかないのに、それっぽくつくっていたり、映画とはちがうものを捏造したりしてしまうものだ。詐欺だ。でも、そうしたくなる気持ちもわからないでもない。だって15秒に映画の全部の情報は入らないし、刺激の強いシーンを並べるとそう見えてしまうこともある。
 先日公開した映画『PERFECT DAYS』は、僕が共同脚本とプロデュースという肩書きになっているが、PRや予告などもつくっている。自分の映画の予告づくりは、さらに難しいということを思い知った。映画を知り過ぎているから客観的になれない。監督のヴィム・ヴェンダースと何度もつくり直した。僕たちふたりが納得するものは、まわりのスタッフにすこぶる不評だった。映画そのものが淡々としているからだけど、予告は淡々を極めたものになっていた。「こんなんじゃ観たいと誰も思わない。情報が少なすぎる」。そう言われて僕らはすこし妥協しながら予告らしい予告をつくった。そしたら映画フリークの友達から「普通の映画みたいで、ヴェンダースの新作っていう感じがしない」と言われてしまった。
 幸い映画は、海外80カ国以上で公開になっている。そうするとたくさんのエリアごとの予告編が僕の承認を必要として送られてくる。お国柄が現れていてそれが実に面白い。そしてああ、こうしたらこの映画らしくて、古いファンも新しいひとも「観たい」って感じるかもしれないと思うポイントがたくさんあった。聞けばどの国にも予告編づくりを専門にしているチームがいた。まあ、それほど独特のスキルが必要とされるものなのだろう。ああ、「自分でやる」とか言わなきゃよかったなあと、まだちょっと思っている。
「高崎卓馬のCM温故知新」 CM INDEX 2024年1月号掲載