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TOP >  インタビュー・コラム >  高崎卓馬のCM温故知新 >  vol.119 ※これは、言うまでもなくイメージです。

vol.119 ※これは、言うまでもなくイメージです。


富士フイルム/写ルンです「カッパ」篇
1995年3月オンエア開始
侍姿の髙嶋政宏と髙嶋政伸が高島忠夫と池の前の草むらで「父上、本当にカッパを見たのですか」などと『写ルンです』を手に話していると、母の寿美花代が背後から池に石を投げ入れ3人を驚かせる内容。

【主な制作スタッフ】
広告会社:電通 制作会社:電通プロックス
CD:新井和夫 企画:田中徹/沢田耕一/山本高史/瓦林智
プロデューサー:玖島裕/高木徳昭
演出:瓦林智 撮影:十文字美信
 写ルンですのCMといえば、ほとんどの人がデーモン閣下のシリーズを思い出すと思う。けれどこの高島ファミリーのシリーズもなかなかの人気だった。時代劇の設定で、家族が毎回いろんなシャッターチャンスを狙うドタバタしたシリーズだ。手がけているのは超巨匠でワンカットの名手、瓦林智監督だ。瓦林さんのCMはいつも面白さと哀しさが同居している気がする。落語は人間のどうしようもない業の、その肯定だといわれるが、それに近いものを感じる。そうせざるを得ない人の悲しさを見つけて、それを優しく誇張するからだろうか。人間はそもそも面白いものなのだから、作り手が自己満足で無理に面白くしようとしたらせっかくの「それ」が逃げていく。作品集を見ているとそんなふうに教えられている気になる。他のワンカットCMとは全然質が違う。覚悟が違う。視聴者の心の眼が、登場人物の「人間」に向かうように虚飾を廃した結果だ。見せたいものがあるときは容赦なくカメラがズームする。そこに作り手のエゴが入り込む余地はない。
 最初に瓦林さんと仕事をしたのは胃薬のCMだった。もう20年以上前だと思う。その頃僕の肩書きはコピーライターで、先輩の後ろについてCMの作業を見学させてもらっていた。チームで一番の下っ端だった。CMの仕上げの時、胃が治る説明のCGのカットに注釈を入れるよう営業から言われた。よくあるやつだ。何の疑いもなく紙に「※これはイメージです。」と書いて監督に渡した。深夜の目黒の編集室で。その紙を一瞥した監督は「つまんないコピーを書くなあ」とポソっと言った。耳の裏がカッと熱くなった。入れるのが当然だと思って、理由も考えず、ただ作業していた自分の意識の低さに恥ずかしくなった。みんなが常識だと思って疑いもしていないところにこそ、面白さの泉があるのに。それを考えもせず、ぼんやり「作業」してしまっていた。まあ実際のところそこを「※これは、言うまでもなくイメージです。」とかにしたら通らない気もするが、でもどんなときにもなんとかしようとする姿勢は大事だ。表現が好きなら最後まで気を抜かずに工夫し続けるべきだ。20年以上たっても忘れられない耳の裏の熱さ。「※これはイメージです。」という注釈を見るたびに思い出す。でもこの恥ずかしさは、やがて自分の中で教訓となって、それからもう宝物のようなものになっている。
「高崎卓馬のCM温故知新」 CM INDEX 2023年5月号掲載