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Creator Interview 栗田雅俊氏(株式会社 電通)前編


嘘のないメッセージが希望を生み出す

2022年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーに輝いた栗田雅俊氏。サントリーホールディングス「人生には、飲食店がいる。」、日清食品『カップヌードル PRO 高たんぱく&低糖質』、ユニクロの「母の日・父の日」をテーマとした新聞広告など数々の話題作を手掛けている。世の中の空気や人々の本音を捉え、多くの共感を集める広告作りについてお聞きした。
(取材:2023年8月3日)
【 CM INDEX 2023年9月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】

栗田雅俊氏
株式会社 電通
CMプランナー/コピーライター
1981年岐阜県生まれ。主な仕事にサントリー「話そう。」「人生には、飲食店がいる。」『サントリー生ビール』、日清食品『カップヌードルPRO』、全国都道府県及び全指定都市『宝くじ』『ロト』『クイックワン』、ユニクロ「母の日・父の日」、パートナーエージェント「ドロンジョとブラック・ジャック」。TCC賞グランプリ、ACCゴールド、ADC賞などを受賞。
サントリーホールディングスの企業広告「人生には、飲食店がいる。」が大きな反響を呼びました
 「人生には、飲食店がいる。」を担当した制作チームは、同社の「話そう。」という広告キャンペーンをきっかけに生まれました。「話そう。」はコロナ禍で最初の緊急事態宣言が発出された2020年の春に田中直基CDをはじめとするチームで実施した企画で、37人の著名人の方にオンラインで自由にお話しいただき、話すことの大切さを伝えるというCMでした。さまざまな時代の節目に広告を通して人々の背中を押し続けてきたサントリーさんだからこそ、この非常時におけるメッセージを1日も早く世に出すことに意味があると考え、企画から実行まで3週間で制作した結果、大きな反響をいただくことができました。年末にはCM「2020年の希望」を制作し、これらの取り組みを通してサントリーの皆さんとも距離が縮まり、広告主と広告会社の垣根を越えてフラットに社会に必要なメッセージを考え合えるチームになれたと感じていました。
 そんな中、コロナ禍で厳しい状況にある飲食店を応援しようと立ち上げた企業広告が「人生には、飲食店がいる。」です。ただ、感染拡大が続く環境下で「飲食店に行こう」と伝えるのはネガティブな反応を引き起こす可能性があまりにも高く、議論を重ねる日々が続きました。そんな中、サントリーの社員の方が「大好きなはずなのに、飲食店に行く習慣を忘れつつあることが寂しい」とポロッとおっしゃったんです。それがきっかけで「お店に行こう」ではなく「私たちは飲食店に支えられてきた」という事実をただ伝え、思い出してもらおうというコミュニケーションの骨子が定まりました。
 実は当初のスローガンは「私たちには、飲食店が必要です。」という意見広告のようなフレーズだったんです。言葉に強さはあるもののもう少し愛される雰囲気や誰もが関与したくなる要素が欲しいと考え、サントリー1社の意見というよりも世の中の“みんな”の言葉になればとメッセージの解釈を拡大して「人生には、飲食店がいる。」と書き換えました。CMでは23本の名作映画に登場するさまざまな飲食店のシーンをつないだ映像も作りました。何千本もの映画をチェックする作業や使用許諾など制作過程では難題ばかりでしたが、飲食店を応援するという大義に共感いただいた映画会社さんのご協力や制作会社さんのご尽力があったからこそ形にできたと思っています。
テレビCMに加え、飲食店の店頭用ポスターを制作した狙いについて
 さらに、飲食店に近い現場で応援するべく制作したのが、さまざまな飲食店への思いをコピー化した店頭用ポスターで、全国2万店を超える飲食店の壁に貼っていただけました。キャンペーン全体を通じて本当に多くの飲食店の方から感謝の言葉をいただき、「涙が出た」「店を閉めようと思っていたけれど思い直した」というお手紙が届いたり、九州のラーメン屋さんからは「俺の餃子を食ってくれ」と餃子が送られてきたりもして(笑)。
 こうしたポジティブな反響を目にしたことで、自分は広告や言葉の力を過小評価していたかもと反省しました。誰かに「あなたが必要です」と言われるだけで力が出ることってありますよね。数十秒の広告や1行のコピーにも人の心を動かす力がある。そのことに、あらためて確信を持てたように思います。
山﨑賢人さん、上白石萌音さん、坂口憲二さんら出演の 『サントリー生ビール』のCMについて
 今年の春に発売したビール新商品のCMで、山﨑賢人さん、上白石萌音さん、坂口憲二さん、お笑いコンビ・オズワルド、アニメ『ルパン三世』の銭形警部を起用させていただきました。とある街を舞台に、それぞれの登場人物がうまくいかないことがありながらも奮闘し、毎日を生き生きと過ごす様子を描くCMシリーズです。
 一連の企業広告とは目的が異なりますが、企画をする上で世の中にとっての意味や役割を問い直すという考え方は共通しているかもしれません。飲食店を“人と人がつながる場”と捉えたように、ビールは何のためにあるんだろうと考え直すと、1日の終わりに、頑張った人を応援して明日も頑張る力をくれるものだなと。また、どんなCMが流れたら世の中が幸せになるだろうと考える中で、戦争やコロナの影響で死が身近にある今だからこそ、生きることを肯定する広告があったらいいなと思い、生命力と生ビールの生を掛け合わせた「生きれば生きるほど生ビールはうまい!」というコピーを書きました。サントリーが満を持して発売した企業名を冠した商品のCMですので、何十年にもわたり広告の中で人間を描いてきたサントリーさんらしい“人間愛”を表現することにはブランドとしての必然性があるとも考えました。CM開始後は、過去20年に発売した同社の缶ビール新商品の中でも最速で販売数量100万ケースを達成するなど売り上げは好調で、うれしい限りです。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。