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Creator Interview 齋藤太郎氏(株式会社dof)後編


課題解決を通して世の中をハッピーに

株式会社dofを設立後、サントリー『角ハイボール』をはじめ、8月度のCM好感度調査で好評価を獲得したMobility Technologies『GO』など、コミュニケーション・デザイナーとしてさまざまな企業のブランディングを手掛ける齋藤太郎氏。GOのコミュニケーション活動の狙いや、課題の本質を見極めるために大切にしている考え方についてお聞きした。
(収録:2022年9月26日)
【 CM INDEX 2022年10月号に掲載された記事をご紹介します。】

齋藤太郎氏
株式会社dof 代表
コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブ・ディレクター
株式会社 電通に入社後、10年間の勤務を経て2005年に「文化と価値の創造」を生業とする株式会社dofを設立。企業スローガンは「なんとかする会社。」。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、コミュニケーションの川上から川下まで「課題解決」を主眼とした提案を得意とする。著書『非クリエイターのためのクリエイティブ課題解決術』(東洋経済新報社)。
竹野内豊さん起用のCMなど、タクシーアプリ『GO』のブランディングを担当されています
 Mobility Technologiesは『JapanTaxi』アプリとDeNAの『MOV』というふたつのタクシーアプリ事業などが統合して発足した企業で、2020年秋に『GO』が誕生する前の段階から事業戦略を含めたブランディング全般についてご相談をいただいておりました。これまでにロゴマークの制作や、「TAXI GOes Next.」というスローガンの策定、CMを含めたプロモーションキャンペーンなどを幅広く担当しています。未来を見据えた総合的な事業戦略の立案に当たっては、GOが「生活者に何を与えてくれるのか」「社会の中でどんな存在になっていきたいか」といったサービスの存在意義や、「移動で人を幸せに。」という企業理念に込めた思想がすべての出発点になるべきである、というお話をクライアントの方々に最初にさせていただきました。GOのロゴマークも、単なる見栄えの良さだけではなく、新たな交通サービスとしての信頼感やワクワク感、タクシーのラッピングやCMで使用した際の見え方、アイコンとしての視認性なども考慮に入れ、コミュニケーションの軸として最大限に機能することを意識して制作したものです。
 また、コミュニケーションの方向性を考えるために力を入れて取り組んだのが「コンセプトワード」の作成です。現在に比べ、当時はタクシーアプリの認知度も利用率も低くユーザーも少なかったため、誰にどんなメッセージを発信していくか整理しておきたいと思いました。ユーザーが利用したくなるシーンを考えてみると、荷物が多い、疲れている、絶対に遅れられないアポがある、天気が悪いなど、何らかの事情で困っているときですよね。空車のタクシーを探したり電話をしたりせずとも、困ったときにアプリで簡単にタクシーを手配できれば人々の移動が楽になり生活が豊かになる。このように生活者がGOを活用する場面を具体的にイメージしていく中で、「困ったらGO!」というコンセプトワードが思い浮かびました。このコンセプトワードが決まったことでサービスの便益が明確なものとなり、CMの企画やキャンペーンの設計を進めやすくなったように思います。この言葉をベースに、CMプランナーの岡部将彦さんをはじめとした制作チームとアイデアを膨らませ、「どうする? GOする!」というキャッチコピーで展開するCMシリーズが誕生しました。近年はCMを流し見する方が多く、視聴者の記憶に残すことが難しい時代ですが、小さなお子さんでも覚えられる「どうする? GOする!」というシンプルなフレーズが広告の“へそ”にあることで、困ったときはすぐに利用できるといったGOの特長が幅広い世代の方へ直感的に理解いただけるようになりました。
 CMは竹野内豊さん演じる“剛田部長”がタクシーの争奪戦を繰り広げたり、大雨の日にタクシーに乗れず苦労したりする様子をコミカルに描く内容で、この夏は竹野内さんが部下役の石井杏奈さんと日陰を探して歩くも行き詰まり、GOで手配したタクシーで快適に移動するといったCMに多くの反響をいただくことができました。アプリのダウンロード数や配車数などでも予想以上の効果があり、非常にうれしく思っています。
「文化と価値の創造」という dofの企業ミッションについてお聞かせください
 dofは「文化と価値の創造」というミッションを会社設立時より掲げています。広告というものは短期間のうちに消費され、忘れられてしまう側面があります。自身の仕事でさえ古いものは記憶が薄れることもありますし、即効性や効率が重視される近年はなおさらその傾向が強いと感じます。一方、僕らが最もやりがいを感じるのは未来に長く残り続ける仕事です。「残る」よりも「遺る」という感覚に近いかもしれません。短期的な成果だけに捉われず、我々の関わった広告やコミュニケーションが生活者に親しまれ、共感や愛着とともに文化や価値として人々の暮らしの中に根付いていく。それが真の意味での成功だという思いを込め、このミッションを常に心に留めています。また広告は能動的に視聴するものではありませんので、偶然目にした人がクスッと笑えたり、少しだけいい気分になったりするような「プレゼント」をご提供しなければ、本当にただの邪魔者になってしまうのではないでしょうか。商品の売り上げや企業の利益を上げることも大切ですが、大勢の生活者が目にする広告創りに携わっているからには、価値の高いコンテンツを届ける責任があると感じています。
— さまざまな企業の課題解決やブランディングを手掛ける上で、大切にされている考え方とは
 ビジネスとは社会の役に立って初めて成立するものですので、ビジネスを通していただくお金というのは“ありがとうの対価”だと考えています。課題解決の相談をいただいた場合、その企業が過去、現在、未来にそれぞれ「どんな言葉でありがとうと言われてきたか」「言われているか」「言われたいか」を探っていくと、イシューが細分化されて、解決策が見つかりやすくなります。おかげさまで当社では長いお付き合いのクライアントが多く、そうしたみなさまとの仕事では、広告だけでなく新たな付加価値やサービスの開発といったモノ作りの面でも深くコミットさせていただくとともに、「社会をどんなふうに変えていきたいか」というビジネスの原点に立ち返った上で、事業の未来について話し合うことも多いです。ブランディングのゴールは、あくまでも人々が幸せになり社会が豊かになることです。広告を含めたさまざまな形の課題解決を通して、生活者もクライアントもビジネスのお手伝いをする我々も幸せになるという“ハッピーの三方よし”の実現を目指し、日々奮闘しています。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。