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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【明円卓氏・後編】第2回/全2回


人との出会いと誠実さを仕事の軸に

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第4回の対談相手は、過去にKDDI『au』の「意識高すぎ!高杉くん」といったCMを手掛けたほか、アーティストのMV、コーヒー店『JANAI COFFEE』の運営など、幅広い領域のコミュニケーションを得意とする明円卓氏。後編では企画を立てる際に大切にしている視点や、広告作りへの向き合い方、今後挑戦してみたいことなどをお聞きした。(収録:6月18日)
【 CM INDEX 2021年9月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第2回/全2回)】
— さまざまな領域の人と出会い、新しい自分でいるための循環を図る
見市:明円自身の広告以外の仕事といえば、独立後に開業したJANAI COFFEE※1だよね。
明円:コーヒー屋のふりをしたバーですね。
見市:オープンしたきっかけを聞かせてもらえますか。
明円:電通を退職するときに「大好きな先輩や仲間に会えなくなるのさみしいな」っていう気持ちがあって。それが最初の純粋な動機ですね。もうひとつは実際にお店を作ろうと考える中で、新しい人に出会う装置を持っておくといろんな循環が生まれるって気付いたんです。独立してひとりの世界に閉じてしまうと、今持っている情報や技術がどんどん古くなるんじゃないかと。いつも新しい自分でいるための装置が必要だと思いました。
見市:いわばコミュニティーの起点だね。一緒に仕事をする人とつながったり、初めて会う人と話したり。
明円:そうですね。初めてご一緒するクライアントがオリエンに来てくださることもあります。
見市:暗号を解いてバーに入ってオリエンするって、気持ちが柔らかくなっていいよね。童心に帰るというか。
明円:リラックスして「楽しいことやりましょう」って気持ちが高まるので、お互いを理解しやすいですね。特にこれからは僕らより若い人たちが仕事の決裁者になっていくケースも増えるので、お店に来てくださる方々と世代やジャンルを超えて、敬意を持って対話することが大切だと感じています。
※1. 明円氏、吉田純貴氏、大槻将之氏が2020年8月に恵比寿に開業したシークレットバー。表向きはコーヒースタンドだが、公式サイトに隠された秘密を解いた人しか入れないという仕掛けで、SNSを中心に話題を集めている
— 自ら発見した価値を自分の手で世の中に広めたい
見市:そういうプライベートな感覚に近いお店の仕事と、広告の仕事の境界線みたいなものはあるのかな。
明円:ほぼ地続きです。アニメーター、イラストレーター、ディレクター、カメラマン、YouTuber、TikTokerなど、ジャンルを問わずいろんな人とお店で出会いましたし、そこで知り合った人と一緒に仕事をする機会も多いですね。特に自分でもの作りをしている人たちに触発されます。それから、会社で出た利益をすべて自分の財布に入れるのではなく、なるべくもの作りに投資したいと思っています。最近はMVの制作に力を入れていて、そこにお金を使おうかと。
見市:自ら出資してMVを作るということ?
明円:いま取り組んでいるのはTikTokでたまたま見つけた関西のバンドで、まだ無名だけどすごく良い曲を作っている。そのバンドが有名になるために何か協力したくて「その曲を権利ごと買いたい」って彼らにDMを送ったんです。僕がお金を出してMVを作るので、YouTubeで再生回数が伸びたりCMのタイアップが決まったりしたら、曲の権利を持っている僕に利益が還元される仕組みで。株のストックオプションみたいな。自分では“ミュージックストックオプション”って呼んでます。
見市:そのバンドの人も喜んでるのかな。
明円:向こうからすると無料でMVを作ってくれたり宣伝を考えてくれたりする人という、お互いにメリットがある形ですね。利益の回収は難しいかもしれませんが、新たなチャレンジとしてやってみたかったんです。
見市:自分で発見した原石の価値を、自分の手で世の中に広げられるか。すごく面白いね。もの作りを生業とする人と関わるうちに、彼らのために「自分は何ができるか」っていう発想が生まれたんだ。
明円:今までにない取り組みですが、彼らの曲がたくさんの人に届くといいなと思っています。
見市:話は変わるけど、広告賞にはもう参加しないって言っていたよね。一般の人に好かれる方が大切だから?
明円:広告賞を否定したい訳じゃなくて、僕ぐらいの世代が“自分を広告するやり方”はたくさんあるよって言ったら、若手が楽になるんじゃないかなと思って。何万RTもされるツイートの方が、広告賞より大勢の人に影響を与える場合もあると思うし。情報発信の場が無数にある今、若手クリエイターは自分の目立たせ方をもっと広い視野で考えてもいいかもしれない。
見市:そういう考え方に気付いたのは独立したからだね。
明円:リモートワークが定着して、若手がますます自分の存在を見つけてもらえなくなってますよね。例えばスタッフィングを考えるときに、どうやって思い出してもらえるかみたいな。僕なんか昔は頑張ってる自分をアピールするために、ずっとデスクにいましたもん(笑)。
見市:最後になるけれど、これからどんなことに挑戦してみたいですか。
明円:自分でものを作って、それを世の中に広めていきたいです。まずはMVのような広告に近いところから試して、ゆくゆくは自分で何かのブランドを立ち上げて、それを自らPRするとか。もちろん広告の仕事もずっと続けていきたいので、少なくとも年にひとつはホームランを打ちたい。
見市:その年の代表作というか、自分の名刺のような仕事を作っていく覚悟だね。
明円:独立して2期目を迎えたので、ますますプレッシャーを感じます。もうひとりの自分が「面白いもの作らないと仕事来なくなるぞ」って(笑)。あとは広告業界にはまだまだ学びたい方が大勢いるので、クリエーティブの先輩方との仕事も続けていきたいです。
— 周囲を褒める姿勢がチームとしての成果につながる
見市:そういえば奥野圭亮さん※2が明円のことを絶賛していたよ。「チームのメンバーをめちゃくちゃ褒める」って。人によるかもしれないけど、クリエーティブの企画を持ち寄るときって“勝つか負けるか”みたいな、ある意味では戦いの場だよね。以前僕と一緒に仕事をしたときも、明円は素直に他の人の企画を褒めていた。そういう姿勢がみんなの士気を高めて、仕事の成果につながるのかな。
明円:自分の企画が通ればうれしいですけど、最終的にチームとして良いアウトプットができればいいので。
見市:独立しても“チーム”ってキーワードがしっくりくるね。
明円:ありがとうございます。でもいい奴だけじゃ仕事がもらえないので、これからも鍛えてください。次はぜひ対面で!
※2. 電通のクリエーティブ・ディレクター。KDDI『au』の「CHANNEL au」シリーズをはじめ、『GU』、フォルクスワーゲン グループ ジャパン「ゴキゲン♪ワーゲン」、ミクシィ『モンスターストライク』など数々のヒットCMを手掛ける
明円卓氏 株式会社kakeru クリエイティブディレクター/プランナー
2014年より電通にてCMプランニングやコピーライティングを軸に統合コミュニケーションプランナーとして活動。2020年7月に電通を退社後、kakeruを創業。CHOCOLATEにも所属。過去の主な仕事に「意識高すぎ!高杉くん」シリーズ、「フワちゃんリモートCM作ってみた」など。恵比寿のコーヒー屋『JANAI COFFEE』の代表も務める。

見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。