グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



TOP >  CM INDEX WEB >  電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【東畑幸多氏・前編】第2回/全2回

電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【東畑幸多氏・前編】第2回/全2回


“感動の記憶”をもとに多彩な表現に挑む

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第3回の対談相手は、ホンダの企業CM「Go, Vantage Point.」や宇多田ヒカルが出演するサントリー食品インターナショナル『サントリー天然水』など数多くのヒットCMを手掛ける東畑幸多氏。前編では、心を動かすCM作りや記憶をストックすることの大切さ、テレビならではの広告効果についてうかがった。(収録:1月28日)
【 CM INDEX 2021年3月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第2回/全2回)】
— 複雑化するメディアの中でテレビの効果に注目
東畑:いろいろなキャンペーンの仕事をする中で、最近はあらためてテレビの力を感じています。情報が無限にあふれるインターネットの世界で流通力を持ちながら広告効果をあげるのはとんでもなく難しい。どちらもかなえる力を持ったテレビはやっぱり特殊なメディアだと思います。
見市:メディアが複雑になって選択肢が増えた分、逆にテレビが効きやすくなっているという実感がありますね。スタートアップ企業との仕事が多いのですが、デジタルマーケティングだけではどうしても認知度が頭打ちになってしまうんです。スタートアップが続々とCMに参入しているのは、ブランドの存在を広く知ってもらう上で有効な手段だと理解しているからだと思います。
東畑:テレビは明確なターゲティングができないからこその価値があるんだと思う。コミュニティーとコミュニティーの間を飛び越えることができるし、今、テレビというメディアはギャラリーとしての価値が上がっている。デジタルが広がるほど、相対的にテレビがある種の公共性を持った器になっている気がします。新聞の全面広告と同じようにテレビで発信するからこそ訴求力や信頼感が生まれるというメリットもあるのではないでしょうか。
見市:デジタルとテレビでは視聴態度も違いますよね。日常に溶け込んでいるテレビは構えて見ていない。無防備な状態だから響く表現もあると思います。
東畑:だいぶ前のCMになるんだけど、サントリーの『ウーロン茶』※のCMが大好きなんです。中国の方々の何気ない様子を静かなトーンで映したもので、今SNSでローンチしても跳ねようがないし、美術館で公開したとしてもきっとスルーされてしまう。テレビのように雑多な映像がひしめきあう中で、圧倒的に美しい映像が落とし穴みたいに現れるからこそ効くというか。上田義彦さんが撮影された上質な空気感も含めて素晴らしく、テレビでしか成立し得ない作品だと思います。
見市:デジタルはその商品に興味がある人に「欲しいでしょ」と言いに行く、いわば“獲得”じゃないですか。テレビは無意識のうちに接触することが多くて、まったく関心のない商品やCMに出会える面白さがありますよね。
東畑:例えば仕事をしていると「思考」を、SNSでは「感情」を刺激されるけれど、最近は「感覚」に作用するコンテンツが少ない気がしています。CMには人間の無意識や感覚に直接触れる力があるから、もしもウーロン茶のCMが今オンエアされたら、あらためて見直される気がする。デジタル広告は流通させるための企画性がないとそもそも成立しないけど、テレビはある程度のリーチが保証されている分、あえて企画性をなくして、身体性や五感に訴えかける「表現」を許される唯一のメディアでもある。そんな「感覚」に作用するCMを作ってみたいです。
— 広告にはフェロモンが必要
見市:CMはこれからどうなっていくか、東畑さんご自身がどのようなことをしてみたいか、うかがってもいいですか。
東畑:難しいな。見市くんはなんて答えるの。
見市:ワクワクするものを作りたいと思っています。学生時代に、カラーバックでシルエットが踊っている『iPod』のCMを見て、めちゃくちゃワクワクしたんですよね。iPodを買ったら絶対に楽しいんだろうなと思った。先の見えない世の中だけれど、商品やサービスが愛されたり売れたりすることと別の軸として、気分が上がるという視点は大切にしたいと思います。
東畑:なるほど。ワクワクって大事。
見市:視聴者だけでなく自分も楽しみたいんですよね。
東畑:クリエイティブではスモールジャイアンツ、つまり「小さくても意味のあること」が大切だと思っています。これまでの経済の概念でいうと、取るに足らないものと思われていたことの中に、大事な課題がたくさんある。クリエイティブの力を、強いものをより強くするためだけじゃなく、別の場所でも生かしていく。小さくても偉大なものを、たくさん生み出す仕事になるといいなと。それとは逆に、テレビCMはダイナミズムこそ魅力であり、可能性だと思う。以前、小田桐昭さんが「今の広告に一番足りないものは、フェロモン」だと言っていて。ターゲットも大切だけど、ターゲットじゃない人さえも魅了する、そんな「フェロモンのあるCM」を作ってみたい。そのためにも「勇気あるアイデアこそ真の効率」ってことを、広告の作り手側が心から信じることが大切だと思います。
※「ウーロン茶はサントリーのこと」などをコピーに、1980年代から約30年間展開されたサントリー『ウーロン茶』のCM。安藤隆氏、葛西薫氏らが手掛けたもので、上田義彦氏らが撮影を担当した。
東畑幸多氏 株式会社 電通 zero エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター
1999年電通入社。主な仕事に江崎グリコ『OTONA GLICOキャンペーン』、九州新幹線全線開業「祝!九州」、日清食品『カップヌードル』、サントリー食品インターナショナル『サントリー天然水』、ホンダ「Go, Vantage Point.」など。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、TCCグランプリ、ACCグランプリ、カンヌライオンズ金賞など、受賞多数。

見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。