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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【東畑幸多氏・前編】第1回/全2回


“感動の記憶”をもとに多彩な表現に挑む

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第3回の対談相手は、ホンダの企業CM「Go, Vantage Point.」や宇多田ヒカルが出演するサントリー食品インターナショナル『サントリー天然水』など数多くのヒットCMを手掛ける東畑幸多氏。前編では、心を動かすCM作りや記憶をストックすることの大切さ、テレビならではの広告効果についてうかがった。(収録:1月28日)
【 CM INDEX 2021年3月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】
 ※第2回は3月30日(火)に公開
— 人の気持ちを動かすのはコピーでなくていい
見市:入社後のクリエーティブ研修でうかがった東畑さんのお話を今でも忘れられなくて。リクルートの転職雑誌『ビーイング』や、『リクナビ』の「山田悠子の就職活動」シリーズ※1についてのお話で、とても面白かったです。
東畑:ありがとうございます。
見市:今回はその頃から変わらずに活躍されている東畑さんとあらためてお話をしてみたくて対談をお願いしました。早速ですが、広告の仕事を目指したきっかけはありますか。
東畑:子どもの頃からずっと口を開けてテレビを見ていたような人生で(笑)。テレビの世界って楽しそうだなという憧れの延長線上に広告がありました。
見市:広告やジャーナリズムへの興味が特別に強かった訳ではないんですね。
東畑:そうですね。大学は慶應のSFCだったのですが、韓国語の楽しさを新入生に伝えたり、レポートの代わりに映像を作るグループワークがあったりして。そういうことなら頑張れそうだと思ったんです。
見市:入社後はクリエーティブに配属されたんですよね。
東畑:当時はまずコピーライターの仕事を通して広告の基礎を学ぶのが通例だったんです。6年くらいはグラフィックしか担当していなかったかな。ただ本も読んでいなかったし、文章を書くことに苦手意識があって大変でしたね。情報の整理の仕方を知るという意味では役に立ったけれど、分かったのは自分がコピーに向いていないということだった(笑)。生活者のインサイトを高い解像度で見ることも得意ではなかったんです。僕はコピーを愛していたけど、コピーには愛されなかった。
見市:東畑さんの書くセリフは体にスッと入ってくるので意外です。仕事が楽しくなる転機ってありましたか。
東畑:経験を重ねた結果、少しずつ手応えを感じるようになったかな。例えばビーイングのCMって、コピーだけを取り出すと大したことは言ってないんですよ。
見市:「うちの職場は無責任な上司が多過ぎる。」とか、失礼ですけど割と普通のことを言ってますよね。でもそれがいいんです。
東畑:何を言うかと同じくらい、誰が言うかも大事だと気がついたんです。コピーが得意だったらそこまで思い至らなかったかもしれないけれど、苦手だからこそ「人の気持ちを動かすのはコピーじゃなくてもいいのでは」と考えるようになって。そこから仕事が楽しくなった気がします。山田悠子シリーズの「リクナビは、就職したいすべての人を応援します。」というコピーもありふれた言葉なんだけど、スポーツバーで青いユニフォームを着たサポーターたちが就活生に声援を送るっていう設定を作ることでエモーショナルに聞こえると考えたんです。普段ふざけている人が良い話をすると意外性が出るし。同じ「ありがとう」でも高田純次が言うと意味がガラッと変わりますよね(笑)。
見市:心を動かすための手段やアイデアを生み出す面白さに目覚めたのですね。
東畑:とはいえCMプランナーになったら、今度は面白いコンテが書けなくて。そこでストーリーになる前の設定を面白くすれば勝負できるんじゃないかと考えました。『サザエさん』を実写化した『OTONA GLICOキャンペーン』のCMで25年後のイクラちゃんを小栗旬さんに演じていただくとか、九州新幹線全線開業※2のCMでは鹿児島中央駅から博多駅までの250kmをウェーブでつなぐとか。
見市:東畑さんのCMって目線が優しいと思っていたんですが、反骨精神みたいなものもあったんですね。
東畑:面白いCMを作れる人にできないことをやろうと思ってきました。多田琢さんや澤本嘉光さんが作られるような誰もが笑ってしまう圧倒的なパワーのあるCMって本当に尊い。でも自分には難しくて、できることを探した結果、感情移入できるとか、少し切ないんだけど笑っちゃうとか、そういうCMで突破してきたような気がします。思い返せばエスケープの歴史ではあるけれど、苦手でもなんとかくらいついていった当時の必死さや強引さが自分の土台を作っているんだと思う。
※1. 2006年開始の『ビーイング』のCMはショッカーが理不尽な仕事に直面するシリーズを展開。翌年放送された「山田悠子の就職活動」シリーズは、スポーツバーで大勢のサポーターが就活生の山田悠子を応援する内容だ。
※2. 九州新幹線の全線開業を記念し、沿線に集まった地域住民が新幹線に声援を送る様子などを映した。東日本大震災の影響で2011年3月9日からわずか3日間の放送となるも、国内外で反響を呼んだ。
— “感動の記憶”をストック
見市:10年前と今を比べて、ご自身のCMの作り方に違いを感じますか。
東畑:時間や経験で作るものが変わるというより、そもそものお題が違うという方が大きいかもしれない。例えばホンダの「GO, Vantage Point.」※3は企業としてのDNAをベースにしているので、当たり前だけれどビーイングのようなCMとは全然テイストが違う。ただ、メディアや環境の変化によって、これまでの作り方が足かせになる場合もあるので、常に葛藤しています。
見市:コロナ禍での広告作りはどう捉えていますか。
東畑:難しいですよね。ただ世の中の空気に近付けようとしすぎるのも違うかなと思っています。大事なのはきちんとブランドや商品と向き合い、平時でも非常時でも受け入れられるCMを作るということ。3.11の後にも感じましたが、広告が人々の日常に寄り添ってオンエアを継続することの意味は大きいと思っています。
見市:今回のコロナに限らず、最近は社会的文脈の中での見え方を意識した広告キャンペーンが目立ちますね。
東畑:楽しませることも大切だけど、これから広告クリエイティブはもっと社会とつながった方がいいと思っています。
見市:広告に限らず、最近気になった表現はありますか。
東畑:河野啓さんが登山家の栗城史多さんについて書いた『デス・ゾーン』というノンフィクションが面白かった。あとは歴史をめちゃくちゃ面白く学べるPodcastの『コテンラジオ』も良かった。渋沢栄一の『論語と算盤』のような歴史的名著もTwitterのネタのような賞味期限の短いコンテンツも好き。いろいろな価値観の中で、揺れていたいんですよね。
見市:その姿勢が東畑さんのジャンルを問わないクリエイティブにつながっているように思います。
東畑:同じ筋肉ばかりをトレーニングして体型がいびつになるようなことは嫌だと思って。自分では“感動の記憶”と呼んでいるんだけど、それを豊かにすれば自分の感性のベンチマークも高いレベルになる気がする。そういう記憶をストックすることは単純に趣味としても楽しいから。
※3. 2017年開始のホンダの企業CM。ONE OK ROCKの楽曲をBGMに、小型ジェット機『HondaJet』が交差点から飛び立つCMがヒットし、2018年2月度から3カ月連続で自動車業類のCM好感度1位となった。
東畑幸多氏 株式会社 電通 zero エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター
1999年電通入社。主な仕事に江崎グリコ『OTONA GLICOキャンペーン』、九州新幹線全線開業「祝!九州」、日清食品『カップヌードル』、サントリー食品インターナショナル『サントリー天然水』、ホンダ「Go, Vantage Point.」など。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、TCCグランプリ、ACCグランプリ、カンヌライオンズ金賞など、受賞多数。

見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。