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vol.88 メイキングは、大切なツールになる


illustration Takuma Takasaki

Apple/iPhone/「Chinese New Year — Daughter」篇 2020年1月公開
中国の旧正月に向けて公開されたウェブ動画で、後部座席に娘を乗せて働くシングルマザーのタクシー運転手の女性を主人公に展開。セオドア・メルフィ監督のもと、ローレンス・シャーが 『iPhone11 Pro』で撮影した。
 メイキング映像が好きだ。最近だとアカデミー賞を獲った『1917 生命をかけた伝令』や『パラサイト 半地下の家族』なんかのメイキングが面白かった。同じようにカメラを構えて、同じように役者が台詞を言っているのに、こうも違うのかと半分絶望しつつも、やっぱり新しいものを作ろうとしたら作り方そのものから新しくしなくてはいけないのだ、と勇気をもらったりする。ここもセットなのか。このカメラの動きはこうやって作っていたのか。そこに至るまで、こういうひとたちがこれだけの情熱と時間をかけてやっていたのか。そういうことを知るとどうしても自分の細胞が熱くなる。
 中国圏でのiPhoneのプロモーションの映像がSNSで話題になっていた。いつもの「iPhoneで撮影」というシリーズで、『JOKER』の撮影監督のローレンス・シャーが撮っている。これがとてもいい。本篇は丁寧に作られた比較的オーソドックスなストーリーなんだけど、同時に公開されているメイキングがなにしろいい。大柄な彼が背中を丸めてiPhoneと自分の身体だけで撮影している後ろ姿にはキュンとなるし、車のダッシュボードの扉にiPhoneをくっつけて、蓋をあけると世界が見える、なんてあのサイズだからこそ撮影することができるアングルを次々に発明していることに圧倒される。そこには撮り方を作るというクリエイティブが随所にある。このメイキングにこそ、Appleの強さというかクリエイティブする心に寄り添うブランドとしての信念のようなものを感じる。
 今の時代は、アウトプットとプロセスのふたつを共有することでコミュニケーションの表現が完成するのかもしれない。それをAppleは意識的にやっている気がする。
 プロセスが不透明なものをひとは嫌う。それは情報過多の世界の病気かもしれない。万能感を傷つけるものをひとは攻撃すらする。もはや結論だけでひとを動かす時代ではないのかもしれない。新型コロナもそうだ。休校や外出自粛などを発表する前に共有をしないからみんなザワザワしてしまう。最近の世の中をみるとプロセスの共有をうまくやれるかどうかがとても大切になっている気がする。「疎外感を与えないコミュニケーション」がこれからのキーワードかもしれない。
CM INDEX 2020年4月号掲載