Creator Interview 宮永充晃氏(株式会社 博報堂)
インナーの熱量を高めブランドを育てる
クライアントの中に飛び込み、クリエイター視点のアイデアで事業の課題に対して結果を出したことなどが評価され、2024年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーに輝いた宮永充晃氏。ドン・キホーテのPB(ピープルブランド)『情熱価格』のリブランディングを中心に、企業の課題解決に向けた仕事に取り組む上で大切にされている考え方をうかがった。
(取材:2025年6月11日 写真:猪俣晃一朗)
(取材:2025年6月11日 写真:猪俣晃一朗)
【 CM INDEX 2025年7月号に掲載された記事をご紹介します。】
株式会社博報堂
クリエイティブ局
クリエイティブディレクター
宮永 充晃氏
2012年、博報堂入社。博報堂DYメディアパートナーズに出向し、通販クライアントを担当。その後、マーケティング部門に異動し、コミュニケーション戦略・商品開発・事業戦略・中期経営計画策定を担当。現在はクリエイティブ部門に属し、複数領域の統合的なプラニングを手掛けている。2024年、クリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞。
クリエイティブ局
クリエイティブディレクター
宮永 充晃氏
2012年、博報堂入社。博報堂DYメディアパートナーズに出向し、通販クライアントを担当。その後、マーケティング部門に異動し、コミュニケーション戦略・商品開発・事業戦略・中期経営計画策定を担当。現在はクリエイティブ部門に属し、複数領域の統合的なプラニングを手掛けている。2024年、クリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞。
リブランディングを通して“ドンキらしさ”を伝える
— ドン・キホーテのPB『情熱価格』のリブランディングへの貢献が高く評価され、2024年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーに輝きました
ドン・キホーテさんからPB(プライベートブランド)の『情熱価格』のリブランディングを通してあらためて“ドンキ”らしい商品を届けたいというご相談を2019年頃にいただきました。当時は一見して安いという価値は伝わるものの、どこかにありそうな特徴が見えづらいブランドになっており、低いブランド認知率が課題になっていました。最初に行ったのは「ドンキらしさとは何か」を問う、ということでした。
僕は広告会社の人間なので、先方も「CMでイメージを変えましょう」「パッケージデザインを新しくしましょう」という提案を想定されていたかもしれません。もちろん最終的にはそういうこともアウトプットのひとつになるのですが、ブランディングの中では戦略も作りますし、それがしっかりとワークするためのインナーコミュニケーションまでトータルに携わります。広告的な視点から外側だけを変えても、社員や店舗のスタッフの皆さんが心から「売りたい」と思える商品でなくては売れないんですよね。大事なのはどれだけ現場のスタッフを巻き込んで、動かせるか。それをストレートに伝えた上で、ローンチの2021年まで時間をかけてPB事業統括責任者の森谷健史さんをはじめとした皆さんと一緒に議論を重ねていきました。
最初に行ったのは情熱価格がどうあるべきかをディスカッションしながら定義することでした。そこでブランドのコアが「驚きの面白さ」と定まったので、そこに値する商品をどう作るか、提供し続けるために必要なことは何か、それを推し進めていく会議体をどう作るか。それぞれの会議の中で議論される内容がどうあるべきかを突き詰めていきました。すべての議論の中心に「驚きの面白さ」という基準点があるので、中途半端なことはできません。そうした思いを共有するための整備を一つひとつ行っていきました。
僕は広告会社の人間なので、先方も「CMでイメージを変えましょう」「パッケージデザインを新しくしましょう」という提案を想定されていたかもしれません。もちろん最終的にはそういうこともアウトプットのひとつになるのですが、ブランディングの中では戦略も作りますし、それがしっかりとワークするためのインナーコミュニケーションまでトータルに携わります。広告的な視点から外側だけを変えても、社員や店舗のスタッフの皆さんが心から「売りたい」と思える商品でなくては売れないんですよね。大事なのはどれだけ現場のスタッフを巻き込んで、動かせるか。それをストレートに伝えた上で、ローンチの2021年まで時間をかけてPB事業統括責任者の森谷健史さんをはじめとした皆さんと一緒に議論を重ねていきました。
最初に行ったのは情熱価格がどうあるべきかをディスカッションしながら定義することでした。そこでブランドのコアが「驚きの面白さ」と定まったので、そこに値する商品をどう作るか、提供し続けるために必要なことは何か、それを推し進めていく会議体をどう作るか。それぞれの会議の中で議論される内容がどうあるべきかを突き詰めていきました。すべての議論の中心に「驚きの面白さ」という基準点があるので、中途半端なことはできません。そうした思いを共有するための整備を一つひとつ行っていきました。
— 2022年から永山瑛太さんと「ド」をモチーフにした“ド情ちゃん”が登場するCMを展開しました
テレビCMの一番の目的はインナーの皆さんに企業の本気を感じてもらうことでした。ドン・キホーテさんがどれだけ情熱価格に力を注いでいくかを従業員の方々、隅々にまで認識していただくためにもテレビCMが強いメッセージとして機能したと思います。ブランドロゴを印象づけたかったのでロゴをそのままキャラクター化した“ド情ちゃん”が突然動き出して永山瑛太さんを驚かせるなど、パッケージに載せたフレーズと商品を前面に出した表現でインパクトを狙いました。
ユニークなブランド価値を可視化して磨き込む
— 「ド」を配したパッケージが話題になりました
それまでの情熱価格のパッケージは店頭で目にしてもドン・キホーテの商品だとすぐに認識しにくかったんですね。「ド」はドン・キホーテらしさの象徴としての「ド」であり、同時に「ド級の驚き」を提供するというPBの姿勢を伝える「ド」なんです。ドン・キホーテさんは権限委譲の文化が強く、店長やスタッフの方々が仕入れから価格設定まで自らの裁量で行えるので店舗ごとに異なる世界観を構築しています。それがコアな価値であり、いわば店舗を通して“驚きの面白さ”を編集しながら店頭で買い物をするお客さまに提供し続けてきたんです。それならばパッケージ自体が「ニュース紙面」であるべきだと考えました。店頭でひとつの商品に目を留める“商談時間”はわずか0.1秒で、その一瞬にフックとなるものが作れるかどうかで売れ行きが変わります。どんな言葉を使うか、文字サイズの強弱も含めて緻密に設計しています。
パッケージに具体的な売り上げデータや「No.1」といった言葉を入れるのはPOPやシールのように手軽にできることではないですし、短期間で変更が必要となる可能性もあります。ですがそこは正直に、もしも状況が変わったのであればそれも含めてどう伝えるかを考えていこうと。商品開発会議も世の中に対して驚きがあるか、メディアに載せてもらえるか、そのときはどこが切り取られているかを最初に考えます。そうした発想が他社にはなかなかまねのできないユニークな企業文化で、「みんなの75点より、誰かの120点」をテーマとした『偏愛めし』シリーズでもドンキらしい商品作りができていると感じています。
パッケージに具体的な売り上げデータや「No.1」といった言葉を入れるのはPOPやシールのように手軽にできることではないですし、短期間で変更が必要となる可能性もあります。ですがそこは正直に、もしも状況が変わったのであればそれも含めてどう伝えるかを考えていこうと。商品開発会議も世の中に対して驚きがあるか、メディアに載せてもらえるか、そのときはどこが切り取られているかを最初に考えます。そうした発想が他社にはなかなかまねのできないユニークな企業文化で、「みんなの75点より、誰かの120点」をテーマとした『偏愛めし』シリーズでもドンキらしい商品作りができていると感じています。
— 情熱価格を「ピープルブランド」と位置付けた理由とは
ドン・キホーテさんはもともと企業原理に「顧客最優先主義」を掲げて、情熱価格に限らずお客さまの声を大切にされてきました。ただお客さまにはそのことがうまく可視化できていなかったように感じたんですね。そこで情熱価格のパーパスを「顧客のためのブランドになる」として、そのためにはプライベートブランドではなく「ピープルブランド」になると宣言すべきではないかと。そうした思いを体現するために生まれたのがリニューアルに合わせて展開した特設サイト『ダメ出しの殿堂』です。これが現在の『マジボイス』につながり、現在はお客さまからの商品へのダメ出しをもとにどう改良するか、どこまで交渉が進んでいるかといった報告をしながらリローンチしていくサイクルができています。
リブランディングというとパーパスを作ることが当たり前になっていますが、実際は機能していないものが見られるのも事実です。それでは意味がないので、実現するための枠組みを作り、企業やブランドらしさを磨き込んで追求し続ける。それこそがファンを広げたり、愛着度を高めるために大切だと考えています。新潟の家電メーカーのTWINBIRDさんと手掛けた『匠 Premium』シリーズでも「ジャパンクオリティ」をテーマに、国内外でどう戦っていくかを情熱を持った社員の方々とともに考えていきました。「付加価値」と「商品開発力」のそれぞれを追求することで、素晴らしいブランドに進化したと思っています。
リブランディングというとパーパスを作ることが当たり前になっていますが、実際は機能していないものが見られるのも事実です。それでは意味がないので、実現するための枠組みを作り、企業やブランドらしさを磨き込んで追求し続ける。それこそがファンを広げたり、愛着度を高めるために大切だと考えています。新潟の家電メーカーのTWINBIRDさんと手掛けた『匠 Premium』シリーズでも「ジャパンクオリティ」をテーマに、国内外でどう戦っていくかを情熱を持った社員の方々とともに考えていきました。「付加価値」と「商品開発力」のそれぞれを追求することで、素晴らしいブランドに進化したと思っています。
— 転機となったお仕事について
入社5年目にとあるメーカーさんの企業ロゴや店舗の全面リニューアルのプロジェクトで経営者の方とお仕事をさせていただいた経験が大きく影響しています。僕が提案した商品開発の企画に対して、部品ひとつの値段を知っているかと厳しいご指摘をいただいたんですね。まずはそこからだと工場や地方の店舗の視察を重ねてさまざまな立場の方にお会いする中で、僕たちが作ったポスターがバックヤードに置かれたままになっているのを見かけました。それまで僕は新しい広告を作れば店頭に貼られるのが当然だと思っていたのですが、現場の皆さんに受け入れられない限りは日の目を見ることもないんだと衝撃を受けたんです。いわゆる広告クリエイティブよりもインナーを一致団結させることが事業にコミットすることだと気付かされ、スタイルが一気に変わりました。コモディティ化がマックスの市場でどのように一歩抜け出すか。そのためにはブランド価値を可視化して販売機運を高めることが重要だと考えています。
僕は広告会社の人間ですが、クライアントさんの内側に入ってリアルな実情を把握しない限り適切な提案ができないので、常に本音で向き合うことを大切にしています。僕が正直にぶつかることでクライアントの方々も次第に本当の思いを打ち明けてくれるんですね。話しにくいこともあるとは思うのですが、どんな些細なことでも本音を隠して進めていくと大きな溝が生まれてしまうので、最初が肝心だと感じています。
僕は広告会社の人間ですが、クライアントさんの内側に入ってリアルな実情を把握しない限り適切な提案ができないので、常に本音で向き合うことを大切にしています。僕が正直にぶつかることでクライアントの方々も次第に本当の思いを打ち明けてくれるんですね。話しにくいこともあるとは思うのですが、どんな些細なことでも本音を隠して進めていくと大きな溝が生まれてしまうので、最初が肝心だと感じています。
— 今後の展望についてお聞かせください
今回クリエイター・オブ・ザ・イヤーという栄えある賞をいただき、広告業界の諸先輩方への感謝と同時に、これまでご一緒させていただいたクライアントの皆さんに育てていただいたおかげだとあらためて実感しました。これまで受賞されてきた皆さまに比べるとやや異色のスタイルですが、どんな課題に対しても商品開発やインナーコミュニケーションを含めたアプローチで解決方法を提案するという今の僕のやり方が、10年後の広告会社の当たり前になればまだ見ぬ後輩たちがより仕事の領域を広げてくれると信じています。まずは僕が今の広告作りを中心としたクリエイターの仕事の幅を拡張していきたいですね。
PPIH/ドン・キホーテ
「ド情ちゃん・爆誕」篇/2022年12月16日オンエア開始
永山瑛太が「皆さん、ドン・キホーテの情熱価格って知ってます?」と呼びかけると、隣で『情熱価格』のロゴをキャラクター化した“ド情ちゃん”が飛び上がる。「♪ドンドン驚き情熱価格」という歌で締めくくった。
「ド情ちゃん・爆誕」篇/2022年12月16日オンエア開始
永山瑛太が「皆さん、ドン・キホーテの情熱価格って知ってます?」と呼びかけると、隣で『情熱価格』のロゴをキャラクター化した“ド情ちゃん”が飛び上がる。「♪ドンドン驚き情熱価格」という歌で締めくくった。
PPIH/ドン・キホーテ
「情熱価格・偏愛めし」(写真左)
「マジボイス」(写真右
「情熱価格・偏愛めし」(写真左)
「マジボイス」(写真右
TWINBIRD
「匠 Premium」
世界一のパン職人といった確かな技術を持つ匠と共創することで生まれた、タイムレスな価値を有するブランドラインとして2021年に誕生。宮永氏は創業70周年を機としたリブランディングを手掛けた。(「匠ブランジェトースター」は2023年秋発売)
「匠 Premium」
世界一のパン職人といった確かな技術を持つ匠と共創することで生まれた、タイムレスな価値を有するブランドラインとして2021年に誕生。宮永氏は創業70周年を機としたリブランディングを手掛けた。(「匠ブランジェトースター」は2023年秋発売)
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。