Leader's Interview 山﨑俊明氏(株式会社 タレントアンドアセスメント)
10年前から変わらぬCMの世界観 きよらが人々の心に残るブランドに進化
アキタフーズが相葉雅紀を起用してブランドたまご『きよら グルメ仕立て』の新CMを5月より放送した。2015年から展開するケチャップライスでできた“寝冷えネコ(きよニャ)”を軸としたCMシリーズの狙いや制作時のエピソード、人々の心に長く残り続ける広告作りについて、同社のブランディングを手掛けるタレントアンドアセスメントの代表取締役 山崎俊明氏にお話をうかがった。
(取材:2025年6月12日 写真:長谷川大)
(取材:2025年6月12日 写真:長谷川大)
【 CM INDEX 2025年7月号に掲載された記事をご紹介します。】
インタビュイー
株式会社 タレントアンドアセスメント
代表取締役
山﨑 俊明氏
アキタフーズ『きよら グルメ仕立て』のブランディング責任者。2016年に「ACC CM FESTIVAL」(当時)のマーケティング・エフェクティブネス部門で総務大臣賞/ACCグランプリ、2017年にCM総合研究所「消費者を動かしたCM展開 特別賞」受賞。株式会社タレントアンドアセスメント代表取締役として、対話型AI面接サービス『SHaiN』を提供。
代表取締役
山﨑 俊明氏
アキタフーズ『きよら グルメ仕立て』のブランディング責任者。2016年に「ACC CM FESTIVAL」(当時)のマーケティング・エフェクティブネス部門で総務大臣賞/ACCグランプリ、2017年にCM総合研究所「消費者を動かしたCM展開 特別賞」受賞。株式会社タレントアンドアセスメント代表取締役として、対話型AI面接サービス『SHaiN』を提供。
― 開始から10年を迎えた『きよら グルメ仕立て』のCMが好評です。2025年5月後期、6月前期の作品別CM好感度調査では初の総合1位に輝きました
CM制作において最も大切にしているのは、2015年に小雪さんを起用した初代のCMからトンマナ(トーン&マナー)を変えないということです。実はきよらのCMの主役はタレントさんではなく、“卵”なんですね。卵を中心としたストーリーに華を添える存在として、キャラクターの“寝冷えネコ(きよニャ)”が登場し「一生のお願いです。きよらで作ったお布団を私にかけてください」などと、かわいらしい子どもの声でゲストにお願いをする。こうしたフレームを変えないことに全力を注いでまいりました。
CMのトンマナを保つ上で、同じ座組の制作チームをブッキングすることも欠かせません。コピーライターやアートディレクターなどさまざまな職種のクリエイターが毎年同じベクトルに向かって息を合わせるのは簡単なことではないと思うんです。ですので年に一度、CM制作時だけ集まるのではなく、数カ月おきに食事会を開くなど、CMに関わってくださる“チームきよら”の方々との関係性を丁寧に紡いでいく。そのことに集中した10年でした。
とはいえCMを長く続けていると、アキタフーズの皆さんから「次は違うCMにしないのか」といった声をいただくことも少なくありません。ただ、商品パッケージにきよニャが印刷されていますので、これを変えようとすると膨大な作業が発生するんですね。こうした物理的な事情も作用して、同じトンマナのCMを続けてくることができました。
CM制作において最も大切にしているのは、2015年に小雪さんを起用した初代のCMからトンマナ(トーン&マナー)を変えないということです。実はきよらのCMの主役はタレントさんではなく、“卵”なんですね。卵を中心としたストーリーに華を添える存在として、キャラクターの“寝冷えネコ(きよニャ)”が登場し「一生のお願いです。きよらで作ったお布団を私にかけてください」などと、かわいらしい子どもの声でゲストにお願いをする。こうしたフレームを変えないことに全力を注いでまいりました。
CMのトンマナを保つ上で、同じ座組の制作チームをブッキングすることも欠かせません。コピーライターやアートディレクターなどさまざまな職種のクリエイターが毎年同じベクトルに向かって息を合わせるのは簡単なことではないと思うんです。ですので年に一度、CM制作時だけ集まるのではなく、数カ月おきに食事会を開くなど、CMに関わってくださる“チームきよら”の方々との関係性を丁寧に紡いでいく。そのことに集中した10年でした。
とはいえCMを長く続けていると、アキタフーズの皆さんから「次は違うCMにしないのか」といった声をいただくことも少なくありません。ただ、商品パッケージにきよニャが印刷されていますので、これを変えようとすると膨大な作業が発生するんですね。こうした物理的な事情も作用して、同じトンマナのCMを続けてくることができました。
相葉雅紀さんの自然体の演技や2歳の子どもの声で人々を振り向かせる
― 今年のCMには相葉雅紀さんに加え、“寝冷えネコ(きよニャ)”の妹として“ベビきよ”が新たに登場しました
本作の企画として最初に決まったのは、きよニャの妹として新キャラクターの“ベビきよ”を登場させることでした。そこから幼いベビきよにお布団を掛けるのに相応しい“パパ”を探す中で、相葉雅紀さんに白羽の矢が立ちました。実生活でも子育て中で、毎日料理をされるという相葉さんは自然体で撮影に臨んでくださり、なかでも布団掛けに失敗した瞬間のハッとした表情が素晴らしかったです。
「掛けてよ」といったベビきよのかわいらしい声は2歳のお子さんに担当いただいています。これは1作目のCMから一貫している考え方で、子どもは子どもの声にしか反応しないと思うんです。テレビの前のお子さんに振り返ってもらうには、演技の上手な子役や大人の声優ではなく、ナチュラルな子どもの声が必要でした。きよニャとベビきよを描く際にはおいしそうに見えることはもちろん、リアルであることを大切にしています。表面の光沢をバターで表現し、きよニャの鼻であるグリーンピースを口に入れても安全な素材で固定するなど、画面には映らないディテールにも徹底的にこだわっています。
本作の企画として最初に決まったのは、きよニャの妹として新キャラクターの“ベビきよ”を登場させることでした。そこから幼いベビきよにお布団を掛けるのに相応しい“パパ”を探す中で、相葉雅紀さんに白羽の矢が立ちました。実生活でも子育て中で、毎日料理をされるという相葉さんは自然体で撮影に臨んでくださり、なかでも布団掛けに失敗した瞬間のハッとした表情が素晴らしかったです。
「掛けてよ」といったベビきよのかわいらしい声は2歳のお子さんに担当いただいています。これは1作目のCMから一貫している考え方で、子どもは子どもの声にしか反応しないと思うんです。テレビの前のお子さんに振り返ってもらうには、演技の上手な子役や大人の声優ではなく、ナチュラルな子どもの声が必要でした。きよニャとベビきよを描く際にはおいしそうに見えることはもちろん、リアルであることを大切にしています。表面の光沢をバターで表現し、きよニャの鼻であるグリーンピースを口に入れても安全な素材で固定するなど、画面には映らないディテールにも徹底的にこだわっています。
CM開始からわずか3週間で25%増の売り上げを記録
― CMへの反響はいかがでしたか
今年のCMは一気に盛り上げたいと考え、初代CM以来、最大規模となる2000GRPの出稿をいたしました。CMの秒数は15秒が中心ですが、相葉さんご出演のテレビ朝日『相葉マナブ』で30秒CMを1回限定で放送したところ、SNSで非常に大きな反響がありました。『きよら濃厚アイス』を販売する『きよらキッチンカー』に、SNSをご覧になったという相葉さんのファンの方々が連日足を運んでくださったこともありがたかったですね。
今回はさまざまな偶然が重なり、嵐のラストツアー発表の翌々日がきよらの新CMの記者発表会で、その週の土曜日にCMがスタートしたんです。週末には情報番組といったさまざまなメディアで嵐のニュースとともにきよらのCMや記者発表会の模様が紹介され、絶好のタイミングに恵まれました。こうした注目度の高まりや、ライブチケット当選を目指して「きよらを買うことで“徳”を積む」といった相葉さんのファンの皆さまのアクションも後押しとなり、キャンペーン前から25%アップとなる月間売上目標を約3週間で達成しました。10年前は現在の5分の1ほどでしたので、テレビCMの効果をあらためて実感しました。また何年も難航していたとある高級食料品スーパーでの販売が始まり、店頭にPOPを飾りたいとご相談いただくなど、お取引先からも好意的な反響をいただいています。
今年のCMは一気に盛り上げたいと考え、初代CM以来、最大規模となる2000GRPの出稿をいたしました。CMの秒数は15秒が中心ですが、相葉さんご出演のテレビ朝日『相葉マナブ』で30秒CMを1回限定で放送したところ、SNSで非常に大きな反響がありました。『きよら濃厚アイス』を販売する『きよらキッチンカー』に、SNSをご覧になったという相葉さんのファンの方々が連日足を運んでくださったこともありがたかったですね。
今回はさまざまな偶然が重なり、嵐のラストツアー発表の翌々日がきよらの新CMの記者発表会で、その週の土曜日にCMがスタートしたんです。週末には情報番組といったさまざまなメディアで嵐のニュースとともにきよらのCMや記者発表会の模様が紹介され、絶好のタイミングに恵まれました。こうした注目度の高まりや、ライブチケット当選を目指して「きよらを買うことで“徳”を積む」といった相葉さんのファンの皆さまのアクションも後押しとなり、キャンペーン前から25%アップとなる月間売上目標を約3週間で達成しました。10年前は現在の5分の1ほどでしたので、テレビCMの効果をあらためて実感しました。また何年も難航していたとある高級食料品スーパーでの販売が始まり、店頭にPOPを飾りたいとご相談いただくなど、お取引先からも好意的な反響をいただいています。
出演するキャストのファン層を深く理解した上でキャンペーンを設計
驚かれるかもしれませんが、今回のキャンペーンではデジタル施策を行っていないんです。TVerもYouTubeもゼロで、地上波CMのみで展開しました。これは相葉さんのファンの方々が接触する機会が多いのは、世代や属性を踏まえると圧倒的にテレビで、デジタルでは数字が出ないと判断したためです。一方、小学生への絶大な影響力を持つHIKAKINさんを起用した昨年はYouTube広告に注力し、1000万回以上の再生回数を記録するなど、毎年キャストの方々のファン層を深く理解した上でキャンペーンを設計しています。
こうしたファン層の厚みを捉える重要性に気付いたのは、2018年にYOSHIKIさんに出演いただいたCMがきっかけでした。ちょうどX JAPANの復活10周年記念コンサートがあった年で、YOSHIKIさんに登壇いただいた記者発表会の最中にブランドサイトのサーバーがダウンするなど、それまで体験したことのない反響を頂戴しました。CMの主役は卵ですし、寝冷えネコの世界観を大切に紡いでいくことに変わりはありませんが、あらためてCMに出演いただく方々の影響力を重視していこうと思い至りました。
こうしたファン層の厚みを捉える重要性に気付いたのは、2018年にYOSHIKIさんに出演いただいたCMがきっかけでした。ちょうどX JAPANの復活10周年記念コンサートがあった年で、YOSHIKIさんに登壇いただいた記者発表会の最中にブランドサイトのサーバーがダウンするなど、それまで体験したことのない反響を頂戴しました。CMの主役は卵ですし、寝冷えネコの世界観を大切に紡いでいくことに変わりはありませんが、あらためてCMに出演いただく方々の影響力を重視していこうと思い至りました。
将来的に最も購買の可能性を秘めているサイレントマジョリティに注目
― ブランド認知に対するCMの影響はいかがでしたか
きよらのマーケティングで特に重視しているのが、サイレントマジョリティへのアプローチです。とある調査で、日常的に卵を購入する方々の間では『ヨード卵・光』といった歴史の長い他社ブランドの認知度が高い一方、普段卵を購入しない層では他社商品よりも『きよら』を知っている方が多いという結果が出ました。買ったことはないけれど、ブランドとして認知している。この方々は非常に重要です。なぜならば直近では成果が見えませんが、将来的に最も購買の可能性を秘めているのがこのサイレントマジョリティだからです。その人たちがいずれ卵を買う年齢や環境になったとき、真っ先に手に取る卵がきよらになる。CM開始から10年が経過した今、こうした形でブランド認知の効果が現れてきたと感じています。
きよらのマーケティングで特に重視しているのが、サイレントマジョリティへのアプローチです。とある調査で、日常的に卵を購入する方々の間では『ヨード卵・光』といった歴史の長い他社ブランドの認知度が高い一方、普段卵を購入しない層では他社商品よりも『きよら』を知っている方が多いという結果が出ました。買ったことはないけれど、ブランドとして認知している。この方々は非常に重要です。なぜならば直近では成果が見えませんが、将来的に最も購買の可能性を秘めているのがこのサイレントマジョリティだからです。その人たちがいずれ卵を買う年齢や環境になったとき、真っ先に手に取る卵がきよらになる。CM開始から10年が経過した今、こうした形でブランド認知の効果が現れてきたと感じています。
― テレビCM以外の取り組みについて
目的に応じてメディアを使い分けていますが、ウェブ広告は“景色”のようなもので、膨大な情報が流れる中で接触するため、長期的に記憶に残すことは難しいかもしれません。例えば新幹線に乗って景色を2時間眺めていたとして、歓声を上げるのは富士山が見えたときぐらいで、それ以外はほとんど覚えていないものですよね。テレビCMも富士山が目に飛び込んできた瞬間のように、「あっ!」と振り返って注目されることが重要です。そのためには、単なる広告というよりも出演いただくタレントや寝冷えネコにひもづいたひとつの魅力的なコンテンツとして、CMを楽しんでいただく必要があります。テレビ番組や新聞などの媒体で紹介いただくことに加え、視聴者の皆さまによる情報拡散、キッチンカーの出店、きよニャの絵本やぬいぐるみ、ガチャガチャ、LINEスタンプといった広告以外の展開も含め、きよらが忘れられない存在として長く愛されるようさまざまな取り組みを行っています。
目的に応じてメディアを使い分けていますが、ウェブ広告は“景色”のようなもので、膨大な情報が流れる中で接触するため、長期的に記憶に残すことは難しいかもしれません。例えば新幹線に乗って景色を2時間眺めていたとして、歓声を上げるのは富士山が見えたときぐらいで、それ以外はほとんど覚えていないものですよね。テレビCMも富士山が目に飛び込んできた瞬間のように、「あっ!」と振り返って注目されることが重要です。そのためには、単なる広告というよりも出演いただくタレントや寝冷えネコにひもづいたひとつの魅力的なコンテンツとして、CMを楽しんでいただく必要があります。テレビ番組や新聞などの媒体で紹介いただくことに加え、視聴者の皆さまによる情報拡散、キッチンカーの出店、きよニャの絵本やぬいぐるみ、ガチャガチャ、LINEスタンプといった広告以外の展開も含め、きよらが忘れられない存在として長く愛されるようさまざまな取り組みを行っています。
コモディティ商品である卵がCMの力で人々に愛されるブランドに
― CMを作る上で大切にされていることとは
もちろんCMを作る目的は「商品を売る」ことですが、そうした企業のエゴだけを伝えても人の心には響かないと考えています。2015年に初めてきよらのCM制作を考えたときに思い浮かんだのが、満島ひかりさんが出演した大塚製薬『カロリーメイト』のCMでした。「とどけ、熱量。」というコピーがいまだに私の心に刺さって忘れられず、「このCMを作った人に、きよらのCMをお願いしたい」と純粋に思ったんです。そこから福部明浩さんや榎本卓朗さんをはじめとしたトップクリエイターの方々とのご縁に恵まれ、今日までご一緒させていただいています。
私が長く大切にしているのが「残身(ざんしん)」という言葉です。これは「またあの人に会いたい」というように、自分の心の中に相手の存在が残り続けることを意味します。目にした瞬間だけ楽しめるコンテンツは世の中にあふれていますが、私がカロリーメイトのCMに抱いている感情のように「もう一度あの映像を見たい」と心に長く刻まれるCMを作ることができる人は、日本に数人しかいないかもしれません。
CMを開始して10年になりますが、卵というコモディティ商品がCMの力でここまで人々に愛されるブランドに進化したケースは世界的にも珍しいのではないでしょうか。「心に残るCMを作りたい」という広告作りの原点となった思いを忘れず、CMの世界観を変えずに継続してきたことがきよらのブランディングの成功のカギであり、売り上げにも大きく貢献できたことを大変うれしく思っています。
もちろんCMを作る目的は「商品を売る」ことですが、そうした企業のエゴだけを伝えても人の心には響かないと考えています。2015年に初めてきよらのCM制作を考えたときに思い浮かんだのが、満島ひかりさんが出演した大塚製薬『カロリーメイト』のCMでした。「とどけ、熱量。」というコピーがいまだに私の心に刺さって忘れられず、「このCMを作った人に、きよらのCMをお願いしたい」と純粋に思ったんです。そこから福部明浩さんや榎本卓朗さんをはじめとしたトップクリエイターの方々とのご縁に恵まれ、今日までご一緒させていただいています。
私が長く大切にしているのが「残身(ざんしん)」という言葉です。これは「またあの人に会いたい」というように、自分の心の中に相手の存在が残り続けることを意味します。目にした瞬間だけ楽しめるコンテンツは世の中にあふれていますが、私がカロリーメイトのCMに抱いている感情のように「もう一度あの映像を見たい」と心に長く刻まれるCMを作ることができる人は、日本に数人しかいないかもしれません。
CMを開始して10年になりますが、卵というコモディティ商品がCMの力でここまで人々に愛されるブランドに進化したケースは世界的にも珍しいのではないでしょうか。「心に残るCMを作りたい」という広告作りの原点となった思いを忘れず、CMの世界観を変えずに継続してきたことがきよらのブランディングの成功のカギであり、売り上げにも大きく貢献できたことを大変うれしく思っています。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。