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Creator Interview 大石タケシ氏(株式会社 電通)


元気のない時代に明るい広告を

2024年度のCM好感度総合1位に輝いた日清食品『チキンラーメン』や、広瀬すず、伊藤沙莉ら起用のサントリー『ザ・プレミアム・モルツ』の「プレモル子ちゃん」シリーズ、初音ミクとコラボした日本マクドナルド『シャカシャカポテト』など、数々の話題作を手掛ける大石タケシ氏。これらのCMの狙いや広告作りで大切にしている考え方についてお聞きした。
(取材:2025年3月13日 写真:長谷川大)
【 CM INDEX 2025年4月号に掲載された記事をご紹介します。】





株式会社 電通
クリエイティブディレクター/CMプランナー
大石 タケシ氏

2007年電通入社。主な仕事に、日本マクドナルド/サムライマック「大人を楽しめ」、サントリー/ザ・プレミアム・モルツ「プレモル子ちゃん」、今西数英教室「一生忘れない塾。」、日清食品/チキンラーメン「チキラーホッパー」、KDDI/auなど。ACC小田桐昭賞、TCC審査委員長賞、ギャラクシー賞大賞など受賞。BRAND OF THE YEAR 2024・CMヒットメーカーランキング プランナー部門1位

最後の1案には、福がある

広告業界を目指した理由、仕事の転機とは
 広告に興味を持ったのは高校3年の頃で、入試の小論文対策で将来について考えていたときに、絶滅動物をテーマにしたバナー広告を見て、人の心を動かす広告の面白さに気付きました。それを機に電通の存在を知り、就職活動中はOB訪問後にアドミュージアムを訪れ、自分もこんな面白いCMを作りたいなと思っていました。
 2年目からクリエイティブ配属でしたが、数年間は仕事で成果を出せず悶々としていました。そんなとき同期の吉川隼太君が、彼が通っていた福井県の学習塾・今西英数教室のCMの仕事に誘ってくれました。制作費は限られていたものの、これはチャンスだと思いお引き受けしました。制作スタッフも数人ですべてが手探りでしたが、「一生忘れない塾。」というコピーを書き、塾の温かい雰囲気や生徒との絆をそのまま伝えるCMを作りました。入社5年目の2011年から13年ほど担当しましたが、塾長からCMに修正が入ったことは一度もありません。教え子に接するように信頼してくださる塾長の思いに応えたいと毎回ギリギリまでコピーや編集を粘り続けることで、最後まで考え抜く力を培えたと感じています。
 このCMを通してTCC新人賞やACCの小田桐昭賞といった広告賞をいただいたり、仕事の幅が広がったりと自分にとって大きな転機となりました。当時は別の仕事でニッチなギャグ路線のCMも作っていましたが、福里真一さんから「大石さんはマニアックな笑いよりも、今西英数教室のようなエモーショナルな表現が向いていると思いますよ」、高柳謙介さんに「大石君はもっとメジャー感のあるCMを目指した方がいい」とアドバイスをいただいたんです。それ以来、無理に笑いに走らず、暗いよりも明るい、複雑なものより単純明快なもの、マイナーよりもメジャーな企画を心掛けるようになりました。
日本マクドナルドのCMを手掛けられています
 日本マクドナルドのCMは篠原誠さんにお声掛けいただき、2020年から携わっています。印象深い仕事は「つらいことがあると堺雅人さんがビッグマックを食べる」CMで、人々が不満を抱えていたコロナ禍だったことや堺さん主演のドラマも追い風となり、SNSで「○○なとき、僕はビッグマックを食べた」がネットミーム化し大きな反響を呼んだことです。これはプレゼン前日に粘って出した最後の1案だったのですが、1本のテレビCMでもタイミングや運が重なるとここまで拡散するのかと大きな学びになりました。直近では『シャカシャカポテト』の広告を担当しました。昨年はニコニコ動画で2011年に流行ったGIF動画のパロディー『Shaka Cat!』が好評だったので、今年はさらに進化した企画をと考え、2月22日の猫の日に4人のアニメーターが書き下ろした猫耳つきの初音ミクがシャカシャカポテトを楽しむ動画「#ミクとシャカろ」を公開しました。3月9日の“ミクの日”には彼女の代表曲を替え歌にしたMV「シャカシャカにしてあげる♪【してやんよ】」を公開し、60秒のスペシャルテレビCMも1夜限定で放映しました。反響は予想以上で、「ミクをテレビで見れるなんて」「懐かしくて涙が出る」といった感想や、国を超えて大量のファンアートがXに投稿されたほか、店内放送でこの楽曲を聞くために来店した方もいたようです。こうしたファンの方々の熱量の高い反応に、僕自身が元気をもらえました。
 3月からは堺雅人さん演じる“Mr.トクニナルド”がマクドナルドの人気商品を次々おトクにする『トクニナルド』キャンペーンのCMも担当しています。マクドナルドさんはブランドとして常に「お客さまに楽しんでいただきたい」というサービス精神を大切にされているので、価格の安さやキャンペーンを単なる情報として伝えるのではなく、思わず参加したくなるような振り切ったエンタメ性のある世界観を意識して制作しました。
サントリー 『ザ・プレミアム・モルツ』の「プレモル子ちゃん」シリーズが好評です
 『ザ・プレミアム・モルツ』は奥野圭亮さんに誘っていただき、昨年からCMプランナーとして担当させていただいています。ザ・プレミアム・モルツは瞬間的なリフレッシュというより、コクや余韻をゆっくり味わうビール。サントリーさんから「豊かな時間を楽しむ、理想の大人のビールであることを改めてお伝えしたい」というオリエンを受け、チームで企画を練る中で、アートディレクターの井本善之君が「『ちびまる子ちゃん』がプレミアムな大人になったら」という案を出してくれたんです。“まるちゃん”たちが20年後に素敵な大人になっている設定は「ゆっくり時間を楽しむ」というテーマにもつながりますし、プレミアムビールのCMとしても斬新で面白くなると感じました。お酒とアニメ原作の組み合わせは実現のハードルも高かったですが、サントリーさんが「この企画が一番ワクワクするから、これで行きましょう」と即決断してくださり、本当にありがたかったです。
 キャストは20年後の世界を彩る俳優として“プレミアムなまるちゃん”を広瀬すずさん、“たまちゃん”と“花輪クン”を伊藤沙莉さん、オダギリジョーさんにお願いしました。本シリーズは原作を知らない方々も十分楽しめる内容ですが、作品自体やファンの方々へのリスペクトも大切にしています。CMの舞台をニューヨークにしたのは、たまちゃんのモデルになった方が国際結婚をしてアメリカ在住だという実際のエピソードが元になっています。またタイムカプセルをモチーフとした第2弾CMの「手紙」篇はファンの間で名作として名高い『たまちゃん、大好き』の巻をベースにCM用のアレンジを加えたストーリーで、オンエア後はSNSなどで大変多くの反響があり、うれしく思っています。

原作やファンへのリスペクトを大切に

『伊右衛門』のウェブCMを担当されています
 『伊右衛門』のウェブCMはプレゼンが昨年12月24日で、『M-1グランプリ決勝』の2日後だったんです。ネタの面白さや注目度に加え、奇跡的なタイミングということでバッテリィズさんの起用を提案したところ、サントリーさんも乗ってくださいました。CMはブランドの原点である京都を舞台に、近藤勇と千利休に扮したエースさんと寺家さんが掛け合うもので、ピュアで素直なお人柄がほっこりと心に余白をくれる京都のお茶にピッタリでした。制作過程では思いがけない出来事もありました。バッテリィズさんが出囃子に使用する『直球勝負の男』を手掛けたガガガSPさんに、おふたりをイメージしたCMソングを依頼できたのですが、その制作中にバンドのベーシスト・桑原康伸さんの訃報が届きました。制作の中断も検討される中で、ボーカルのコザック前田さんが書いて送ってきてくださった「どんなことも笑いながら乗り越えてゆこう」といった力強く前向きな歌詞と楽曲を聴き、チーム全員、これは必ず完成させて世に出さなければと思いました。サントリーさんもガガガSPさんの熱い思いに共感してくださり、CMの公開に至りました。全11篇のうち1篇では楽曲をフル尺で流し、ガガガSPさんがバッテリィズさんを交えて笑顔でレコーディングをする様子も映しています。今回のCMが存在したことでこの楽曲や光景が生まれたことに、すごく胸に迫るものがありましたし、こんな瞬間を作れる広告に携わっていきたいなと、広告の価値に改めて気付かされた仕事でした。
広告作りで大切にしていることとは
 今って暗いニュースも多い時代なので、見た人が少しでも明るく、元気になれる広告を作りたいと考えています。構造が新しかったり、コピーやセリフがカッコイイCMにも憧れますが、僕自身がすごく単純で、普通の人の感覚なので、分かりやすく誰でも楽しめるシンプルな表現に行きつくことが多いです。2024年度のCM好感度で総合1位となった日清食品『チキンラーメン』では“たまごポケット”にたまごが落ちる様子から「♪ポンポン スポポン」という永井祐一郎さん演じるアクセルホッパーのネタを連想し、単純ながらクスッと笑えるCMを思いつきました。商品の課題の中から、愛されポイントを見つけて、そこにチャーミングさや、人間らしい隙のようなものを加えると喜んでもらえる気がします。
 以前、企画に悩んでいたとき、篠原誠さんに「CMはめちゃくちゃ面白い必要はなくて、ちょっと面白ければいいんだよ」と言われてすごく気が楽になったことがあります。15秒で芸人さんのような爆笑を狙うのではなく、少しだけ心が動けばいいと。シンプルで明るくチャーミング。ちょっと元気になれて、ちょっと愛してもらえるCMをこれからも作っていけたらいいなと思います。
日本マクドナルド/シャカシャカポテト
「シャカシャカにしてあげる♪【してやんよ】(feat.初音ミク)」篇/2025年3月9日オンエア開始
2月22日の「猫の日」に猫耳つきの初音ミクが『シャカシャカポテト』を楽しむ動画を公開し、3月9日の「ミクの日」には彼女が自身の曲の替え歌を歌う60秒CMを1回のみ放送。
サントリー/ザ・プレミアム・モルツ
「プレモル子ちゃん・再会」篇/2025年2月9日オンエア開始
アニメ『ちびまる子ちゃん』の20年後の世界を実写で描く新シリーズの第1弾CM。「人生は、ゆっくりおいしくなる。」をコピーに、広瀬すず、伊藤沙莉、オダギリジョーが大人になったまる子、たまちゃん、花輪クンを演じた。
サントリー食品インターナショナル/伊右衛門
「伊右衛門×バッテリィズ」/2025年2月19日ウェブで公開
「京都の時間が流れるお茶。」をコピーにお笑いコンビ・バッテリィズのエース、寺家が近藤勇、千利休に扮して掛け合うもので、予告編を含む11篇を公開。ガガガSPの書き下ろし楽曲『ケセラセラ』をBGMに展開した。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。