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広告の今を語る “仮想脳”でクリエイティブの質を向上 — ソニー銀行株式会社 —


NTTデータが提供する『D-Planner®』はコンテンツ視聴時の脳活動を予測するというクリエイティブ評価ソリューションだ。ソニー銀行は昨年よりD-Planner®を導入し人の経験や勘だけに頼らない質の高いクリエイティブ作りを推進している。同サービスを導入した狙いや活用方法、活用することで生まれた変化などについてソニー銀行のマーケティングを統括する中路宏志氏にお話をうかがった。
【 CM INDEX 2024年3月号に掲載された記事をご紹介します。】

インタビュイー
中路宏志氏
ソニー銀行株式会社
執行役員CMO
マーケティング部 担当
電通グループを経て2008年ソニー銀行へ入社。マーケティング領域と新規事業開発(BizDev)領域に従事し2023年より現職。マーケティング領域全般のリード役を担当。

— 貴行のマーケティング活動について
 マーケティング・コミュニケーション領域と、カスタマー・エクスペリエンスの領域、住宅ローンや外貨預金といったプロダクト・マーケティングの3つを主に行っています。
 我々は店舗ではなくインターネットを中心としたチャネルでサービスを提供するダイレクトモデルですので、テレビCMやリスティングなどの広告宣伝やPR活動を通して新規顧客の獲得を図り、口座を開設したお客さまにどのように活用していただくかという施策に力を入れているほか、ソニーグループの一員として音楽ライブへの協賛といったブランド価値やお客さまのエンゲージメントを高める活動、オウンドメディアやSNSの運用など多面的な取り組みを実施しています。
 また近年では、例えば外貨預金の獲得というKGIに対して、外貨の口座を作るのは既存、新規どちらのお客さまが多いのか、外貨に結びつく検索ワードのボリュームの変化など、KGIに結びつく要因を先行指標として各プロダクトごとに設定するなど、データ分析のセクションとともにマーケティングの高度化を進めています。
— 『D-Planner®』を導入した狙いについて
 従来のクリエイティブは人の感性や経験、知見によるところが大きく、また評価についてもPDCAでいえばCAという施策後の工程になります。一方『D-Planner』であれば人ではなく仮想脳による予測モデルによって、広告の好感度やブランドの印象といったさまざまな指標の評価を客観的に確認でき、また事後ではなくクリエイティブの制作過程でも評価することができます。
クリエイティブ評価ソリューション『D-Planner®』とは

『NeuroAI®』『D-Planner®』は日本国内おける株式会社NTTデータの登録商標

人間の脳活動予測モデルである『NeuroAI®』を応用し、「ヒトがコンテンツに対してどのような印象を抱くか」を多面的に定量評価できるシステム。さまざまな動画や静止画を分析できる汎用性や、最短40秒で評価できる利便性の高さを誇る。

結果の良し悪しの“なぜ”を深掘り
制作過程でクリエイティブを最適化

 クリエイティブの評価はクリック数やCPAといった数字のボリュームで評価されることが多いですよね。「なぜ、その数字になったのか」という要因を探るときには「ここが良かったのではないか」と仮説を立てることになります。結果としてはまず数字のボリュームでの評価で問題ありませんが、成功したとしても、なぜ良かったのか、どこが優れていたのかという要因が分からなければ、次の施策における再現性はありません。
 D-Plannerを通すことで視聴者のアテンションなどの「なぜ」を深掘りし、再現性を確保するための要因を定量的に予測できるため、制作に携わるメンバーの経験や感性に加え、客観的なデータによるクリエイティブの評価が可能になります。
 一般的にクリエイティブの検証はオンエア後やキャンペーン終了後に実施し、今後に向けた勝ちパターンを見つけるものですが、D-Plannerはその手前の段階で検証できるため、リリース前にクリエイティブを最適化することができる。例えばテレビCMは大きな投資であり、制作後の修正は費用の面でも現実的ではないため、制作過程の中で軌道修正できるのは大きなポイントだと考えています。

A or Bの二者択一ではない
細分化されたクリエイティブ評価

— D-Planner®をどのように活用されていますか
 視聴者の画面上の視線をヒートマップで示す「アテンション予測」をCM制作に生かしたことがあります。以前のCMでは女性の顔のアップとメッセージを映しており、クリエイティブの定石としても感覚的には気持ちの良いものだったのですが、女性が100のアテンションだった一方で、メッセージは5に留まり、最も伝えたいことに注目を集められていませんでした。そこで新CMでは完全にコマを分け、メッセージと検索窓にアテンションが集まるよう制作しました(下図参照)。
 これまで素材の良し悪しはクリックなど何らかの数字が獲得できたか否かという素材全般で評価をするしかありませんでしたが、D-Plannerは動画の中でどのコマが優れているかが分かり、例えば30秒の中の10秒の部分のコマが良いなど細分化して評価できる。A、Bどちらの素材かという二者択一ではなく、シーンごとに評価、分析できることは優れた機能です。
 旧CMは誠実に語りかける落ち着いたトーンの表現だったのですが、D-Plannerの評価で視聴者の興味が著しく下がるシーンがあるなど、30秒という限られた秒数では視聴者の印象に残りにくいという課題がありました。そのため新CMではBGMをアップテンポにし、テロップもモーションタイポにするなどアクティブな表現に変更しました。こうした課題抽出という点はD-Plannerの強みだと実感しています。これらのケースでは過去の素材を比較対象としましたが、何と比較するかによって評価も解釈も変わります。これには使う人の経験値が重要となりますので、正しく判断ができるように今後ノウハウを蓄積させたいと考えています。
D-Planner®の「アテンション予測」を活用した改善例
(左:旧CM、右:新CM)

制作進行の円滑化に効果を発揮
クリエイティブへの理解促進も

— D-Planner®導入後に変化はありましたか
 クリエイティブについて議論する際に、参加メンバーそれぞれが感じたことはすべて正しいのですが、感性の話ですから空中戦になりがちで、打ち合わせ後の満足感は高くても、次の打ち手がはっきりしないこともあります。D-Plannerの導入後は、例えば広告の印象といったテーマにフォーカスした上で定量的に議論ができるため、議論の質が高まり、改善点が以前と比較して明確になりやすくなっていきます。また制作は限られた期間の中で進行しますが、「これで良いのか」という迷いがあっても従来であれば「撮影日がここだから」といった理由で進めざるを得なかったことがありました。D-Plannerを通して議論すべき点や判断材料を得られるため、課題をクリアにしながら次のステップに進められるのはクリエイティブを制作する上で非常に効率的ですね。
 人の感性や経験がクリエイティブに重要なことは変わりなく、そうした人の知見もD−Plannerを使うことで高まると感じています。「何が良いのか」を人から人へ伝えるのは難しいことですが、こうしたツールを通して自分の中で仮説が正しかったのかを検証できるなど経験値が高まり、さらにツールを使いこなせるようになる。こうした好循環が生まれるのではないでしょうか。

D-Planner®の評価をパートナーと共有
アジャイルなクリエイティブ制作を実現

 広告会社をはじめとしたパートナーに対しても、クライアントの感覚として修正を依頼するのではなく、D-Plannerを通した評価の結果として伝えられるようになりました。
 また、企画をいただいた後にVコンを用意してもらうようになったことも大きな変化です。VコンをD-Plannerで評価して「同じシーンが続かないよう」「この場面が暗くならないよう」などと具体的にディレクションをしながら、オフライン、完パケへと進めています。
 よく開発手法では「アジャイル」という言葉を使いますが、我々もクリエイティブの制作スキームとフローにD-Plannerを取り入れ、制作のパートナーの協力のもと、リリース前の段階からのブラッシュアップする取り組みを開始しています。

チラシやホームページ、説明動画など
D-Planner®を幅広く活用

— CM以外の活用例、また今後チャレンジしたいことについてお聞かせください
 途上の段階ではありますが、同一商材の各社のチラシを集めてD-Plannerで評価したことや、当社ホームページのメインビジュアルなどの画像を評価したことがあります。印刷物や画像は動画に比べて評価軸がシンプルですので、今後はさらに活用していく予定です。
 また従来はネットバンキングとして文字と画像で商品・サービスを紹介することが多かったのですが、情報環境が変わり、それらを動画で見たいというニーズも高まっています。広告に限らず、こうした動画の評価にD-Plannerを使えば、お客さまにとってさらに分かりやすいコンテンツに近づけることができるかもしれません。申込書といった帳票などへの活用というアイデアも考えられますね。
 さらにD-Plannerとアクセス解析といった従来のツールをどのように組み合わせるかもポイントです。当社の場合はCMオンエア後の検索数への影響を計測するツールを導入しておりますが、ここで分かるのは施策後の実際の結果で、その数字に対する要因の深掘りがD-Plannerの役割だと考えています。どのような評価手法も万能ではありませんから、互いに補完をさせる使い方を探りながら、成果につながる再現性の高い優れたクリエイティブを目指していきたいと思っています。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。