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BRAND OF THE YEAR 2023・特別対談 栗田雅俊氏(dentsu)


『BRAND OF THE YEAR 2023』では、2022年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど人々の共感を集めるクリエイティブが高く評価されているdentsuの栗田雅俊氏を迎え、CM総合研究所 代表 関根心太郎との特別対談を実施。人々に長く愛される広告作りや、これからのテレビCMの可能性などをテーマにトークを展開した。
(開催日:2023年12月19日)
【 CM INDEX 2024年1月号に掲載された記事をご紹介します。】
『BRAND OF THE YEAR 2023』についてはこちら

dentsu
Creative Director / Copywriter
栗田雅俊氏

Profile:1981年生まれ。主な仕事にサントリー「話そう。」「人生には、飲食店がいる。」『サントリー生ビール』、日清食品『カップヌードルPRO』、全国都道府県及び全指定都市・宝くじ『ロト』『クイックワン』、ユニクロ「母の日・父の日」、パートナーエージェント「ドロンジョとブラック・ジャック」。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、TCC賞グランプリ、ACCゴールド、ADC賞などを受賞。

人の心に種をまき長く愛されるCMを

関根 2023年度はCMで訴求する商品の「試用意向度」、CM好感要因の「商品にひかれた」のスコアが過去最高値となりました。販促型の広告が勢いを増しているように見えますが、この結果をどうお考えでしょうか。
栗田 世の中全体が忙しくなり、時間の使い方が変わってきていますよね。映画も、話の結論を調べてから見る人も増えたと聞きます。CMに対しても「前置きはいいから、結論を先に知りたい」「商品のことを分かりやすく教えて」という生活者の気分があり、そういう方々に対して商品情報を中心に伝えるCMが増えているのかもしれません。
関根 たしかに生活者の意識の変化が影響していると感じます。続けて、栗田さんが手掛けられた『サントリー生ビール』のCMについてお聞きします。新商品でありながらほぼ商品の説明がありませんが、その狙いとは。

CM表現がコモディティー化する今
“似ていない”ことが大切

栗田 商品を中心に伝えるCMが増えると、冒頭に商品説明があって、その良さに驚く人が登場するというように表現が似てしまい、CMがコモディティー化すると感じていたんですね。そこで「他と似ていないものを」と考え、既に市場に数多くのビールがある中で、今現在ない“ビールの人格”を探すところから企画を始めました。またこれまでに同社の企業広告「人生には、飲食店がいる。」など、何を応援するのかを明確にしたCMが好評をいただいたこともあり、そうした流れも踏まえながら「このビールは誰を幸せにするんだろう」と考えたんです。そこから「生きれば生きるほど生ビールはうまい!」というコピーを書き、日常の中で誰もが感じる大変さを肯定するビールであり、今を生きる人を元気よくカラッと応援するというブランドの人格を軸に企画を進めていきました。
関根 CM好感度調査の自由記述欄に最も多く書かれているのが「面白い」というワードです。先日、栗田さんに「面白い」をひと言で言い換えるとしたら何かとお尋ねしたところ、「似ていない」とおっしゃいましたよね。
栗田 CMプランナーの井村光明さんから教わった考え方です。自分の経験でも、面白いものを作ろう!と思うと途中で何が面白いか分からなくなってしまう。でも「似ていないもの」を作ろうとすれば、少なくともヒットの可能性を獲得できる気がするんですね。手法はさまざまだと思いますが、誰もいない場所でどのように勝負するかがポイントだと思います。
関根 「面白い」に関連したデータとして、近年のCM好感度調査では「ユーモラス」というCM好感要因のポイントが減少傾向にあります。
栗田 これも恐らく先ほどのデータと相関していて、CMで商品情報に使う秒数が増えた分、相対的に減ったということではないでしょうか。以前よりもCMを最後まで見てくれない人が増えている状況も影響しているかもしれません。ただ一方で、CM好感度ランキングの上位は今もユーモラスなCMが圧倒的に多いですし、その力が効かなくなったわけではないと思います。
関根 コミカルなCMといえば、栗田さんの担当された日清食品『カップヌードルPRO』のアニメCMがヒットを続けています。サントリー生ビールとは印象が異なりますが、CM好感度でも販売面でも成果を上げている両ブランドの広告作りに、共通点はあるのでしょうか。
栗田 両商品とも企業や商品の「人格」を大事にしているのが共通点かもしれません。サントリー生ビールであれば、ビール本来の価値でもある、毎日頑張っている人を理解し、寄り添うような人格ですね。日清食品のCMなら面白いものが大好きな“日清らしさ”を大切に。「法人」という言葉に「人」という字が入っているように、どの企業も人格を持っている。ですのでどんな企業のCMでも、その人格に忠実に作るよう意識しています。長期的なブランディングへの貢献という意味でも、人格を描く重要性を感じます。サントリーには長年世の中の人々を応援してきた広告活動の実績があるからこそ、メッセージ性のあるCMが今も受け入れられていますし、KDDI『au』やキウイブラザーズが人気の『ゼスプリ キウイフルーツ』、女将さんが登場するアイフルのように、CMの力を信じて長く続けることで企業の一貫した人格が広く浸透し、ブランドの価値を高めていく例も多いと思います。

企業の人格に忠実なCMを意識
モットーは嘘をつかず、愛らしく

関根 企業そのものへの共感や愛着、信頼性は商品の選択時にも重視されていると感じます。近年、当社の調査で、ボリュームは多くないものの、「企業姿勢にウソがない」というCM好感要因が伸びています。
栗田 情報にあふれている今だからこそ、真実が求められているのではないでしょうか。嘘やごまかしはすぐに見抜かれますので、広告を作る際はできるだけ嘘をつかないことを意識しています。そもそも広告って商品を売るために、本物より良く見せようとちょっとお化粧したり小さな嘘をついてしまう側面があると思うんです。そんなCMが多い中で逆に正直なCMを作ると今の時代に合って目立つかなと。またCMって、単なる情報伝達だけじゃなくて、企業の人格や時代の気分を同時に描いて初めて興味を持ってもらえるものだと思うんです。情報を正直に突きつけても受け入れられにくい時代だからこそ、情報を楽しく見せたりかわいらしく伝えたりすることが大切。「できるだけ嘘をつかず、愛らしくやる。」を個人的にも大事にしています。
関根 今後のCMの可能性についてお聞かせください。
栗田 CMの持つ力は恐らく私たちの想定よりも大きくて、販売促進だけでなく、もっと大きなうねりの中で商品の魅力を効果的に伝えられると感じています。大塚製薬『カロリーメイト』は商品の説明はほぼないですが、受験シーズンに温かく思い出すようなCMですよね。CMって種のようなもので、見たときに心に種が植えられ、いつかパッと芽を出すときが来る。CMにはそんな長期的スパンでの変化を作る力もあり、日本中に種をまける唯一無二の表現文化だと思います。販売促進を目的とする「刈り取り」的なCMが増える昨今、人の意識を長い目でポジティブに変える「種まき」という役割も忘れてはいけないなと思います。

2023年度のテレビCMについてまとめたレポートをご用意しております。