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Leader's Interview 小郷 三朗氏(一般社団法人 ACC)


広告の原点に立ち返り
人間の新たな幸せや成長に寄与する

一般社団法人 ACC(英文名:All Japan Confederation of Creativity)は、より良いCMの制作と放送の実現に寄与することを目的として、1960年に活動を開始。広告主・広告会社・制作会社・メディアの4業種のメンバーを中心に構成され、業種の枠を超えて日本のクリエイティビティーの発展に貢献すべく、「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」をはじめさまざまな活動を行っている。新たに理事長に就任された小郷三朗氏にACCの取り組みと今後の広告に求められることをうかがった。
(取材:2023年10月5日 聞き手:CM総合研究所 代表・関根心太郎)
【 CM INDEX 2023年11月号に掲載された記事をご紹介します。】

インタビュイー
小郷三朗氏
一般社団法人 ACC
理事長
1954年大阪市生まれ。京都大学法学部卒。1977年サントリー(当時)入社。洋酒事業部長、宣伝事業部長、SCM本部長などを経て、2006年取締役に就任。2011年にサントリー食品インターナショナル専務取締役、2016年代表取締役社長、2019年代表取締役会長に就任。退任後、2021年より同社顧問を務める。

— 理事長としての抱負をお聞かせください
 ACCはCMの表現やクリエイティブの向上を目的として誕生した団体です。ACCの広告賞は歴史のある意義深い賞で、私も受賞できたときには非常にうれしかったですし、それは今、広告に携わる方々にとっても変わらないでしょう。ACCは世の中の人に広告へ注目してもらう機能を果たしていますから、そうしたコアの部分は引き継ぎつつ、より価値のある賞になるよう磨きをかけていきたいですね。ここ数年の時代の流れとして広告表現に限らずアイデアやイノベーションを包括したクリエイティビティーを評価する方向に進みつつある中で、ACCも2017年に「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」へと名称を変更しました。クリエイティビティーに対する評価は、広告クリエイターにとって今後ますます成長するための糧になるものだと思います。
 一方で私個人としてはACCの原点に立ち返り、“クリエイティブ”にもう一度フォーカスを当て、より良い広告表現の技術、あるいは社会に与える影響にフォーカスできたらと考えております。特に若いクリエイターの育成は時代を変える大きな原動力となりますので、「TOKYO CREATIVE CROSSING」のようなクリエイターが一堂に会す機会を設けるなど、より良い広告表現を追求していきたいと思っています。

広告は単なる情報伝達ではなく、人々に情感や感動をもたらす

— 広告の役割についてどのようにお考えでしょうか
 広告は“広く告げる”というマスコミュニケーションのひとつです。大勢に伝わることは要件のひとつですが、単に情報を伝えるだけではありません。アドバタイジングは「振り向かせる」という語源の通り、いかに注目を引き振り向かせるかがポイントです。また広告には短い時間の中で、何らかの情感を与えて感動を呼び起こすきっかけや、人々が新たな行動の一歩を踏み出すための後押しにもなるといった独特の表現スタイルがあります。望んで見たものではないにせよ、心動かす瞬間が生まれるのはとても素敵なことだと思います。
 一方で、そもそも広告というものは100%経済行為であることに疑問の余地はありません。しかし、それは世に出た瞬間から社会的な意義と文化的な意味を持たざるを得ません。そういう宿命を持っているからこそ広告主は、広告表現が及ぼす影響についても責任を持つことが大切です。そうした意識を業界全体で共有し、広告の力が世の中の役に立つようなサポートができればと思います。

企業や商品を「好きになってもらう」
そのために広告が果たす役割は大きい

 宣伝活動は本来、商売が目的ですから基本的には商品を売るためのもので、ブランディングという言い方をしても根っこは同じです。広告を通して人々を振り向かせて自分たちのことを知ってもらう、長く記憶してもらう、もっと言えば好きになってもらう。人々が買い物をするとき、よく考えて(「Think」)から買うのか、あるいは感覚で(「Feel」)選ぶのかという2軸に加え、商品についてよく調べて(「Learn」)から買うのか、ほぼ思考せず手に取る(「Do」)のか、といった購買パターンのメカニズムがあります。さらに同じジャンルの商品から何かを選ぶ際には「良いもの」「悪いもの」「なんとなく好き」「なんとなく嫌い」という4つの象限があって、「悪いものだけど好き」などの感情も購買行動に影響を与える。例えばアルコールであれば嗜好品なので“好き”という領域が非常に重要な産業で、その“好きになってもらう”という広告の機能が極めて大きな力を発揮します。
 産業によって広告の機能が働きやすいものとそうでないものはありますが、昨今は企業に対する評価も商品選択のひとつの軸になっていますよね。その企業が好きか嫌いか、それも広告の影響が極めて大きく、今後ますます重要になるのではないでしょうか。
— これからの広告に求められることとは
 今は世の中が大きな変わり目にあると感じています。これまで多くの企業にとっては成長こそが最大の命題でした。つまり低コストでどれだけの成果を上げるかを追求し、結果として利益が出ていた。人々は物の所有や消費こそが喜びであり、それらを企業が提供することで経済が回っていました。ですが昨今、地球環境のためにサステナブルな成長が求められるようになった。「安ければよい」「自分たちだけが成長できればよい」では通用しない時代ですので、おのずと仕事自体が変わってきます。

人間がいかに変わるか
社会が変われば広告の役割も変わる

 もうひとつ重要なのは働き方で、WX(ワーキング・トランスフォーメーション)といわれるように、いかに人々の働き方を変えられるかという視点です。
 所有や消費ではなく、人間が人間らしく生きるということ。かつての『トリス』のコピー「人間らしくやりたいナ」ではありませんが、心の充実や感動が今後の目標となるのではないでしょうか。地球環境や社会のためになる方向に人が働き、成長する。人間がいかに変わっていくかという“ヒューマン・トランスフォーメーション”(HX)の貢献を目指すビジネスの変化に合わせて、広告の役割も変わっていかなければなりません。単なる販促支援やブランディングの手段にとどまらず、人間の新たな幸せや成長に寄与する広告作りへ変わっていくと思います。

苦しいときこそ、敵陣深くロングパスを
「広告に大逆転はある。」

 私はACCの理事長として、最初に「広告を愛し、広告の力を信じるすべての人のためにがんばります。」と就任のあいさつをしました。サントリーという企業には、創業当時から広告への愛がDNAのように受け継がれているんです。我々のようなメーカーは商品を直接販売するのではなく流通を経由して消費者にモノをお届けしているため、広告だけがダイレクトに消費者にアプローチできる手段です。ですからクリエイティブを大切にして継続的に投資をする。クリエイターはもとより、広告会社、プロダクション、メディアを含めてひとつのチームであり、パートナーであるという考えが根付いています。みんなで広告の質を高めていくということですね。
 私はこれまで折に触れて「苦しいときこそ、敵陣深くロングパスを投げよ」という言葉を口にしてきました。このロングパスに相当するものこそ“広告”で、まさに一発逆転です。簡単に成し得るものではありませんが、広告には世の中や人の心を変える力がある。これからも広告の力を信じ、社会の豊かな発展に貢献できればと考えています。
写真:長谷川大
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。