グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



TOP >  CM INDEX WEB >  Leader's Interview 鈴木 あき子氏(サントリーホールディングス株式会社)

Leader's Interview 鈴木 あき子氏(サントリーホールディングス株式会社)


自分ごと化できるメッセージを通して
ブランドへの興味と共感を獲得

サントリーホールディングス株式会社は1899年の創業当時より、広告業界を牽引する企業として人の心を動かし、共感を集める広告を世の中に届け続けている。モノを売るだけにとどまらず、人間に寄り添う広告を生み出す上で大切にしている考え方とは。同社の宣伝戦略について、コミュニケーションデザイン本部副本部長 兼 宣伝部長の鈴木あき子氏にお話をうかがった。
(取材:2023年9月4日 聞き手:CM総合研究所 代表・関根心太郎)
【 CM INDEX 2023年10月号に掲載された記事をご紹介します。】

インタビュイー
鈴木あき子氏
サントリーホールディングス株式会社
コミュニケーションデザイン本部副本部長 兼 宣伝部長
1992年サントリーへ入社。西東京支店、ビール事業部を経て、2001年宣伝事業部へ配属。2015年サントリースピリッツ 宣伝部長、2018年サントリーコミュニケーションズ 宣伝部長、2020年サントリースピリッツ執行役員 RTD・LS事業部長を経て、2023年4月より現職

モーショングラフィックを用いた斬新な新CMで
“週末のごほうび”としてプレモルをアピール

— 『ザ・プレミアム・モルツ』の新CMに、お酒のCMへの出演が初となる広瀬すずさんを起用されました
 『ザ・プレミアム・モルツ』(以下、プレモル)は2003年の発売以来、時代に合わせたさまざまなテーマで広告を展開してまいりました。今年はお客さまのライフスタイルの変化などを踏まえ、「週末のごほうび」をテーマとした新たなコミュニケーションを実施しています。まず2月に大泉洋さんを起用したCMを開始し、その後広瀬すずさんが登場するCMを7月より放送しました。いずれも商品パッケージの金色と紺色を基調としたモーショングラフィックを使用し、お客さまの目を引く斬新なアニメと実写を組み合わせ、おふたりそれぞれがプレモルを週末に楽しむ様子を描いています。広瀬さんの出演作は彼女にとって初めてのお酒のCMですので、メディアも含め世の中からの注目度が非常に高かったですね。“飲み手代表”の広瀬さんが大人になったからこそ分かるビールのおいしさを堪能する姿には、今の彼女にしか表現できない新鮮味と説得力がありますので、週末のごほうびというメッセージに多くの視聴者が共感してくださったのではないでしょうか。このほかCM公開の1週間前には「#すずのビールは何ビール?」というCMの銘柄を予想していただくティザーキャンペーンをX(旧Twitter)で実施するなど、新しくなったプレモルへの期待感を醸成するためのさまざまなプロモーションを展開しました。

“育児あるある”を盛り込み、リアリティーに満ちた表現で子育て世代の支持を集める

— お笑いタレント・あばれる君を起用したウェブCM「無言の父たち」篇も大きな反響を呼びました
 育児に奮闘する父親たちの日常のさまざまなシーンを描くもので、“育児タレント”としても知られるあばれる君が“新米パパ”を演じています。本作は制作プロセス自体が令和的と言いますか、SNSで育児マンガなどを発信されている育児インフルエンサーの犬犬さん、“ひみつのうつ子ちゃん”さんにCM企画のネタ出しの段階からご参加いただきまして、それぞれの実体験に基づくリアリティーに満ちた育児“あるある”を盛り込むことに注力しました。また、あばれる君夫妻をはじめ、子育て中のお笑いタレント・木下ゆーきさん、家族系インフルエンサーの“おうちごっこひろあき”さんといった方々にも出演いただくことで、限りなく嘘のない表現に仕上がったように思います。
 物語の後半まで商品は一切登場せず、ラストシーンで子どもを寝かしつけたあばれる君が実の奥さまであるゆかさんとプレモルで乾杯し、「ママもおつ!」などと言いながら互いをねぎらう温かいひとときを描いています。「たいへんでしあわせな、わたしたちの週末に。」というメッセージはすべての年齢層に響くものではないかもしれませんが、子育て世代には「週末のごほうびってこういうことだよね」と深く“自分ごと化”できるストーリーに落とし込めたと自負しています。本作公開後は制作に協力いただいたインフルエンサーの皆さまが自ら情報拡散してくださったこともあり、子育て世代を中心に予想を上回る反響を頂戴することができました。
 このように幅広い世代への訴求力を持つ広瀬さん起用のテレビCMと、ターゲットを絞ったウェブCM、SNSでのティザーキャンペーンといった多面的なプロモーションを展開することで、多くのお客さまに商品を手に取っていただくきっかけ作りができたと感じています。

商品スペックよりも人間を描くことを意識
毎日を一生懸命に生きる人々を応援

— 山﨑賢人さん、上白石萌音さん、坂口憲二さんらが登場する『サントリー生ビール』のCMについて
 当社にはプレミアムビールのプレモル、新ジャンルの『金麦』、ビールテイスト飲料の『オールフリー』といったさまざまなビール類製品がある一方、酒税改正などを踏まえ、スタンダードビールで当社の顔となるブランドを立ち上げることが積年の課題でした。そうした思いのもと、今年4月に満を持して発売したのが『サントリー生ビール』です。CMを作るに当たり、商品価値の中で何を優先してお伝えすべきか悩みましたが、今回のCMシリーズではビールユーザーのお客さまにフォーカスを当てています。「生きれば生きるほど生ビールはうまい!」「全員優勝。」といったコピーに私どもの思いを託し、「毎日を一生懸命生きているお客さまを励まし、頑張った1日の締めくくりに寄り添うビール」であると感じていただけることを狙いました。
 もちろん「トリプル生」といった製法や味わいも大切な要素なのですが、広告は“いつどこで何を言うか”が重要と考えています。人間同士の関係に例えると、初対面でいきなり自慢話を始めるような人って、あまり好かれないじゃないですか(笑)。企業のコミュニケーションも同じだと思いますので、商品スペックの訴求よりも人間を描くことに力点を置き、ビールユーザーに興味と共感を抱いていただくことを意識しました。また頑張り方は人それぞれですが、多様なキャストが登場する群像劇にすることで、すべての頑張る人を肯定していると多くの視聴者に感じていただけたのではないでしょうか。
 幸いなことにCMオンエア後は商品の売り上げも好調で、2023年の販売計画を当初の約1.3倍に当たる400万ケースに上方修正し、発売から3カ月で200万ケースを超える販売数量を記録することができました。

創業当時から受け継ぐ広告作りのDNA
時代の半歩先を行く斬新な表現を

— 長きにわたり、広告史に残る名作を世に出し続けています。広告を作る上で大切にされている考え方とは
 新しく宣伝部門に入ってくる社員に私が必ず伝えているのが、サントリー宣伝部の3つのDNAです。まず1つ目は「エトバス・ノイエス(etwas neues)」。これは「something new」のドイツ語で、2代目社長の佐治敬三がよく話していた「新しいことをやろう」という考え方です。まさにその先駆けとなったのが大正時代の『赤玉ポートワイン』のポスターだと思うんです。当時は女性が両肩を出すなんて御法度でしたので、日本初の(セミ)ヌードポスターとして世の中の話題をさらい、赤玉の知名度を一気に高めたと聞いています。また広告関連の会合で必ず話に上るのがサミー・デイビスJr.出演の『サントリーホワイト』、『サントリー ローヤル』の“ランボオ”といった1970、80年代に放送されたCMで、これらに衝撃を受けて広告業界に入ったというお話もよくうかがいますね。こうした斬新な表現や時代の半歩先を行くという思想は、現在も宣伝部として重視しているポイントです。

“人間らしくやりたいナ”のコピーが象徴
いつの時代も人間に寄り添う姿勢が大切

— モノを売るだけでなく、時代の空気を映す広告や人の心を動かすCMを数多く制作されています
 当社の広告作りで長く受け継がれている2つ目のDNAが“人間に寄り添う姿勢”です。これを象徴するのが「人間らしくやりたいナ」という『トリス』(1961年)のキャッチコピーで、高度経済成長期であった当時の社会へのアンチテーゼとして開高健先生が書かれた言葉です。一般的に広告はモノを売るために存在しますが、いつの時代もサントリーの広告の根っこには“人間讃歌”という思いがある。そのことを私自身も先輩方から常々教えられてきました。例えば東日本大震災の翌月にオンエアした「歌のリレー」篇、コロナ禍に展開した「人生には、飲食店がいる。」などもこの流れから生まれた広告です。先ほど申し上げたプレモルとサントリー生ビールのCMも、人生の応援歌としてお客さまに寄り添う気持ちを元に作り上げたからこそ、多くの視聴者から共感をいただけたのではないでしょうか。
 最後の3つ目のDNAは“豊かな生活提案”です。1970年代に話題となった「金曜日はワインを買う日」のキャンペーンをはじめ、自分へのごほうびとしてのプレミアムビールの訴求、ハイボールという新たなウイスキーの楽しみ方の創出など、新しいライフスタイルや生活習慣まで提案していく。こうしたモノを売るだけではないコミュニケーションがサントリーの矜恃ではないかと思っています。

水を守る活動は事業の継続に不可欠
誠実に向き合う姿勢が企業の信頼を生む

— 森林保全を通した水源涵養活動といった社会的な取り組みに関する企業広告を長年展開されています
 コミュニケーション以前の話として、当社の清涼飲料やお酒といったほとんどの製品が水を原料としていますので、きれいな水がないと事業活動が継続できません。1923年に建設した日本初のモルトウイスキー蒸溜所も、良質な水を求めて京都南西の山崎に建設したといいますし、ビール工場の立地も豊かな天然水に恵まれた場所を選んでいます。
 新しい地図の3人が出演するCMでお伝えした「Water Positive」という「使用する以上の水を育む」という考え方は最近ようやく注目されるようになりましたが、当社の水源涵養活動は昨今始めたものではなく、すでに20年の実績があります。1973年に開始した愛鳥活動も今年で50周年を迎えました。こうした取り組みに長く誠実に向き合い続けているからこそ、社会活動を伝える企業広告にも説得力が生まれるのではないでしょうか。また近年のお客さまは商品選択時に企業への信頼性や共感の有無を重視する傾向が非常に高いため、当社もこれまで以上に企業広告に注力しています。かつては新聞広告が中心でしたが、テレビCMを放送したり、お客さまが実際に体験できる場を設けたりと、複合的なコミュニケーションを通して当社が長年取り組み続けている事業活動をお伝えするよう努めております。

広告でメッセージを届けにくい今だからこそ
“見たい”と思う強いコンテンツ作りが重要

— メディア環境が変化する中、これからの貴社のコミュニケーション活動について、どのようにお考えでしょうか
 近年はデジタル化の影響で個人の接触する情報がパーソナライズされ、広告を届けにくい時代になりつつあります。こうした状況で企業が広告を通して生活者にメッセージを伝えるには、結局のところ強いコンテンツを作ることしかありません。そう考えると“人間に寄り添う”といったサントリーのDNAを守ることは変わりませんし、今後も引き継いでいくべき企業資産だと考えています。ただ、広告に向き合う姿勢やメッセージの本質は同じでも“話法”は変えるべきだと思います。例えば仲間同士で盛り上がっているSNSのような場所で、企業が突然大声で自慢を始めたら嫌われてしまいますよね。「どこで何をどのように言うか」の見極めがますます重要になると感じます。情報環境も社会も変化の激しい時代ですが、お客さまが目にすることで喜びや共感、あるいは応援されていると感じるコンテンツを生み出すこと、人間に寄り添いお客さまが“見たい”と思う広告を作り続けることが何よりも大切だと考えています。
写真:長谷川大
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。