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データベンダーが紐解くマーケティングの潮流:熱狂のWBCから見える スポーツの広告的な価値とは


日本を代表する調査会社であるインテージ、エム・データ、CM総合研究所が現在のマーケティングにおけるトピックや各社保有のデータから見えるトレンドにフォーカスする本シリーズ。第2弾となる今回はインテージの深田航志氏、エム・データの上田雅司氏、CM総合研究所の轟久未子が各々データベンダーとして協力することの意義や、「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」をテーマに、各社のデータから見えたスポーツコンテンツの広告的な価値について語り合った。
【 CM INDEX 2023年8月号に掲載された記事をご紹介します。】

上田雅司氏
株式会社エム・データ
データマネジメント部 シニアマネージャー
TVメタデータの運用や調査・分析、ダッシュボードツール「TV Rankシリーズ」の開発、ビズデブなどのマネジメントを担当
轟久未子
CM総合研究所
コンサルティング営業局 局長 チーフコンサルタント
「BBCワールド」の広告営業などを経て2006年CM総合研究所に。CMの動向から読み解く情報をクライアントに提供
深田航志氏
株式会社インテージ
事業開発本部 XDUプロモーション総括担当
株式会社ビデオリサーチを経て、2018年に株式会社インテージ入社。主にテレビ視聴ログの商品企画・開発、PRを担当

轟:当社はテレビを中心にCM好感度調査を行っておりますが、デジタルの出稿状況や効果測定、売り上げの情報といった我々のデータだけではカバーできない相談を受けることが増えていますので、データベンダー各社の持つデータや知見を持ち寄って相互補完し、複雑化する広告の課題解決に貢献することが求められていると感じます。
深田:効果測定データなどの情報提供を含め、広告会社が広告主をケアするのが一般的ではありましたが、広告プロモーションを自ら行う広告主も増えています。我々のような第三者機関のデータベンダーが広告主の必要に応じてデータや知見を提供する。そうした選択肢を用意しなければならないと考えています。
上田:あらゆる情報がデータ化されるようになり、客観的な分析が可能になっています。複合的にデータを分析することで、より深い知見を得られるのではないでしょうか。
轟:CM総研では東京キー5局で流れたすべてのテレビCMのオンエア履歴をデータベース化し、放送エリアである関東1都6県のモニターの方々に毎月2回、定点的にCM好感度調査を実施しています。流れたCMに対して視聴者がどのように感じたか、商品・サービスに対して興味を抱いたかといった受容実態を、月2回というスピード感で定性、定量で提供できることが強みのひとつです。
上田:エム・データはテレビ番組とCMの放送実績をテキストデータ化した「TVメタデータ」を生成しています。CMでは東名阪とBS、またインテージさんと協力して「全国CMマスタ」という全国47都道府県の全地上波テレビの出稿情報をデータベース化しています。我々のユニークな点は番組データで、番組の放送内容をコーナー単位、トピック単位まで細分化してデータを作っています。何時何分何秒から何時何分何秒まで、どのようなテーマの話題が流れ、どのような人物や企業、商品ブランドが登場し、どのような情報がどのくらいの時間放送されたのかを独自にサマライズしています。またこれとは別に番組内で紹介された商品や観光スポット、ホテル、飲食店などもデータベース化しており、こうしたデータをECサイトやアプリサービスなどに連携する取り組みもしています。
深田:エム・データさんとは全国CMマスタのほかに、番組のメタデータとインテージの視聴データを結びつけて、純広告以外のメディア露出を計測しています。
 昨年、スイッチメディアさんと共同でリリースしたテレビ視聴データの分析サービス『TVAL』ではリーチ、フリークエンシー、ターゲティングが分かり、これらがセールスに占める広告施策の貢献度の3分の1を占めるのですが、広告の成否はクリエイティブによるところが大きい。当社でもクリエイティブ調査はできますが、定点観測で長年にわたり積み重ねられてきたCM総研さんのデータと組み合わせることで、広告施策の貢献度の8割強を明らかにでき、広告主の皆さまにとって価値の高いデータが提供できるはず。顧客ファーストの視点で取り組んでいきたいですね。

WBC関連の話題がテレビを席巻
大谷翔平への注目度が飛躍的に伸長

轟:ラグビーのワールドカップが9月に迫り、また来年はオリンピックイヤーとなります。大きな盛り上がりを見せたWBCにフォーカスし、データを組み合わせることでどのようなことが見えるか、事例とともに話を進めます。
 WBCの協賛企業18社が地上波でCMを出稿し、例えばクレディセゾンは佐々木希さんが出演するCMを佐々木朗希投手が先発した試合でオンエアしていました。佐々木つながり、しかもおふたりとも東北出身です。また注目度が高い中継内で新CMのオンエアを開始するケースがあるなど、広告効果を高める工夫が見受けられました。
 最も注目すべきはWBCの期間中、大谷翔平選手が出演したCMが高いCM好感度を記録したことです。セールスフォース・ジャパン『Salesforce』は同社最高のCM好感度を獲得しました。コーセーの女性向け化粧品ブランド『コスメデコルテ』はCM好感度も非常に高く、売り場に男性のお客さまも多数訪れ、CMが売り上げに貢献したとうかがっています。興和『バンテリン』やニューバランス・ジャパンのCMも少ない放送回数でそれぞれ自己最高スコアとなり、大谷選手の効果で男女幅広く支持を集めました。
図表1:大谷翔平が出演する主なCMのCM好感度
(2023年3月後期/CM総合研究所調べ)

上田:WBCや大谷選手がテレビでどれだけ話題になったのか。今年1月から4月までのWBCのテレビの話題時間を見ると、大会の期間に向けて右肩上がりで伸び、以降、沈静化しましたが、大会終了後に関連話題や侍ジャパンの選手の他での活躍が伝えられるなど、効果が長く続いたといえます。WBCが開催された3月の話題時間を、過去の大会と比較すると、今回の大会は極端に話題量が多いです。2006年の第1回、2009年の第2回も優勝しましたが、今大会はイチロー選手の勝ち越しヒットで優勝した第2回大会の倍近い話題時間になっています。今大会のよりドラマチックで熱い展開が影響したと考えられます。
 朝のニュース・情報番組での話題時間をランキング形式でまとめた『日刊TVニュース速報』というメルマガサービスを提供しており、そのランキングのスポーツカテゴリを1月から3月で週ごとにまとめますと、12週のうち10週でWBCの話題がトップに立っています。開催終了後も凱旋帰国といった試合以外の話題も多く流れました。
 また、今回のWBC、昨年のFIFAワールドカップ、2019年のラグビーワールドカップそれぞれの大会期間中の1日あたりの平均話題時間は、WBCがトップで12時間弱、FIFAワールドカップが9時間半、ラグビーワールドカップが4時間弱です。今回のWBCは濃密な話題量を振りまき、視聴者はそれを浴び続けていたことが分かります。
 次に、大谷選手の話題時間を、大谷選手が花巻東高校で甲子園に出場した2011年から2023年6月まで時系列で確認すると、大会開催月の2023年3月では256時間という驚異的なものになっています。また、大会前の1、2月の1日の平均話題時間は54分44秒だったのに対し、大会終了後の4〜6月の平均話題時間は2時間52分56秒に達しています。2021年、2022年、2023年の4~6月の話題時間を比較しても、2023年は過去2年の倍近くなっているので、WBCを境に大谷選手への注目度がさらに高まったといえると思います。
深田:全米の視聴率のトップ50のうち、48がNHLなどのスポーツイベントで、日本でも過去の視聴率ランキンングではサッカーが並ぶなど、スポーツは注目度の高いコンテンツです。インテージが取得している東名阪におけるテレビ接触率によると、 WBCの日本戦の個人視聴率は15~20%となっています。
 今回はAmazon Prime Videoで配信され、すべてのアプリ利用者がWBCを視聴していたわけではありませんが、試合の行われた日で使用率が高い伸びを示しています。時間にフォーカスするとWBCの配信時間に明らかに高くなっており、利用者はWBCを視聴していたのだと推察できます。ある広告アナリストの話ですが、WBC決勝戦のAmazon Prime Videoの利用率はテレビ視聴率の4 ~5%相当だったという試算をされていました。視聴習慣につなげていくという意味でも、大きな効果があったといえます。
 WBC決勝当日の年齢ごとの視聴率、アプリ利用率を見てみると、女性40〜60代、男性60代がテレビの利用率が高く、男性10、20代はAmazon Prime Videoが高いです。速報を配信していた『スポナビ 野球速報』も20代の男性が高く、テレビやデジタル配信を通して全世代にリーチできるコンテンツであったことが分かります。
図表2:大谷翔平の各月テレビ話題時間(関東エリア)
(2021年1月〜2023年6月/エム・データ調べ)

轟:WBCや大谷選手の話題がテレビで長時間にわたって放送され、試合の視聴率も非常に高い。そうした関心の高まりがCM好感度にも影響しているといえますね。
 もうひとりの主役といえるのがラーズ・ヌートバー選手です。7月前期の商品・サービス別のCM好感度調査で、ヌートバー選手の出演する『Zoff』のCMが総合2位に入りました。CM好感要因の「出演者・キャラクター」では全2075商品・サービスの中で最も得票数が多く、ヌートバー選手のCMへの貢献度が分かります。また感想欄にCMで共演した母親の久美子ヌートバーさんのことを記述しているケースも見られました。森永製菓『inバープロテイン』も少ない放送回数ながらCM好感度を獲得しています。
上田:ヌートバー選手は大会期間中の話題時間が大谷選手の120時間に次ぐ80時間と、WBC出場の日本代表選手の中で第2位です。大会前後で比べると1、2月の1日の平均話題時間が10分24秒、4〜6月が29分14秒と約3倍に伸びました。ヌートバー選手の出演CMについては芸能ニュースでも取り上げられ、実際のCMではなく番組で接触したケースもあったのではないでしょうか。
 また、ヌートバー選手で忘れてならないのが久美子ヌートバーさんの存在です。ヌートバー選手が話題になると、久美子さんも話題になるケースが増え、大会期間中のWBC出場の日本代表選手の話題時間ランキングに久美子さんを入れると32人中22位という位置になります。活躍するヌートバー選手と応援する久美子さんという親子関係の構図が、視聴者に親近感や共感を与え、その分、話題として取り上げやすかったと考えられます。大谷選手やヌートバー選手もそうですが、村上宗隆選手や米国代表のマイク・トラウト選手など、試合での活躍はもちろんですが、感情移入しやすいドラマチックな展開があるとテレビでも話題になりやすく、アスリートを起用する上では重要な要素だと考えられます。

スポーツへの協賛は純粋想起や若年層のアクションに結びつく

深田:15のスポーツコンテンツのスポンサー効果について関東在住のモニターを対象に一昨年、昨年と調査を行いました。例えばサッカーですと6000人中2600人がテレビや配信で観戦しており、この2600人にサッカーを通して知っているスポンサーを純粋想起で3つまで回答してもらうと、キリンチャレンジカップのキリン、Jリーグの明治安田生命、アディダスがトップ3に並びます。ラグビーであればサントリー、パナソニック、テニスであればユニクロと、冠スポンサーになっていたり、継続的にスポンサーをすることが純粋想起に結びついていそうです。
 スポンサー企業について、信頼が高まる、親しみが増すといったイメージ、購入・利用したくなる、SNSで発信・共有したくなるといったアクション、それぞれ5項目について尋ねると、若年、特に男性ほどスポンサー企業に対するアクションが高くなる傾向があります。例えば「周囲の人にオススメしたくなる」の項目は若年層でより高い数値を示しており、スポーツへの協賛のメリットは若い人たちへ訴求し、アクションにつながりやすい点にあるといえます。
轟:スポーツコンテンツにはCM出稿や協賛など多面的な要素があり、それぞれ広告効果は高いといえそうです。広告は流したままにせず、効果検証をして初めて次に生かせるものですので、広告主、広告会社の皆さまにこうしたデータを活用して広告効果を高めていただけるよう、お手伝いができるとよいですね。
図表3:スポーツ協賛企業に感じるイメージ
「商品・サービスを周囲の人にオススメしたくなる」

(インテージ調べ)

写真:髙野宏治
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。