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データベンダーが紐解くマーケティングの潮流:ABEMAに聞く コネクテッドTVの現状と未来


第三者機関としてさまざまなデータを提供しているインテージ、エム・データ、CM総合研究所は、企業の健全なマーケティング活動に資するべく3社で協力し、現在のマーケティングにおけるトピックや各社保有のデータから見えるトレンドにフォーカスした連載をスタート。第1回目となる今回は、インテージの深田航志氏がABEMAの大久保晶平氏に、インターネット回線に接続された「コネクテッドTV(CTV)」の現状や展望、ABEMAの取り組みについてお話をうかがった。
【 CM INDEX 2023年7月号に掲載された記事をご紹介します。】

インタビュイー
深田航志氏
株式会社インテージ
事業開発本部 テレビ動画事業推進部 部長
1998年に株式会社ビデオリサーチ入社。調査、テレビ局営業、テレビやデジタルデータの営業・企画開発を担当。2018年に株式会社インテージ入社。主にテレビ視聴ログの商品企画・開発、PRを担当

大久保晶平氏
株式会社AbemaTV
ビジネスディベロップメント本部 プロダクト部門 統括
2012年に株式会社サイバーエージェント入社。2015年に株式会社AMoAd代表取締役社長に就任。2019年11月より株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部 プロダクト部門 統括に

テレビでの視聴時間の半分をストリーミング配信が占めると予想

深田:インテージ調べによると、CTVにおけるストリーミングの視聴時間は年々伸びてきており、2025年にはテレビデバイスでの視聴時間の半分を占めると予想されます(図表1)。広告枠という面でも世界的に関心が高まっており、テレビ由来の動画広告枠であるCTV、リニアTVといったプレミアム広告枠は非常に注目されています。はじめに日本のインターネットTVのパイオニアであるABEMAさんの現状についてお聞かせください。
大久保:2016年のABEMA開局以来、WAU(Weekly Active User)は右肩上がりで伸びており、今年5月には2023年において最高値となる2,000万を突破しました。これまでは恋愛番組をはじめとした幅広いジャンルで若い世代を取り込んできましたが、最近では昨年に「FIFA ワールドカップ カタール 2022(以下、FIFA ワールドカップ)」全64試合を無料で生中継し、またMLBなどスポーツコンテンツにも力を入れていることもあって、若年層以外の視聴者もより増えてきています。
深田:ABEMAの視聴者といえば若年層のイメージが強いです。
大久保:麻雀プロリーグ戦『M.LEAGUE』や将棋の番組なども放送していたため実際は若年層だけではなかったのですが、若年層が強いことが特徴ではあったので外に出る情報として目立っていたのかもしれません。さまざまなジャンルのコンテンツを、全世代の方に楽しんでいただいているのが現状です。

ABEMAの視聴デバイスにも変化
約3割のユーザーがCTVで視聴

深田:スマホ、タブレット、PC、CTVとABEMAを視聴できるデバイスがある中、構成比はどのように推移していますか。
大久保:一番伸びているのはCTVで、コンテンツによって多少の変動はありますが、3割前後の方がCTVで視聴しており、広告在庫も3割を超えました(図表2)。PC、スマートデバイスでの視聴も伸びていますが、CTVの伸びが顕著です。
深田:デバイスによって視聴時間に増減は見られるものでしょうか。
大久保:デバイスというより視聴コンテンツによるところが大きいですね。将棋だと一局が非常に長いですし、恋愛番組は40、50分です。デバイスにあえて切り出すとしたら、“ながら視聴”ができるテレビの視聴時間が長い傾向にあるのではないかと思います。
深田:地上波、BSといったテレビ放送、YouTube、Netflixなどの動画配信サービスが多数ある中で、生活者の視聴習慣にABEMAが加わるきっかけ、あるいは視聴習慣に貢献したコンテンツはありますか。
大久保:プロコンテンツを無料で提供しているサービスがそもそも少ない中、ABEMAではクオリティーの高いコンテンツを幅広いジャンルで楽しめますし、『M.LEAGUE』といったABEMAでしか無料で見られないコンテンツもあります。ですから、暇つぶし感覚で見始める方、自分の趣味のコンテンツをきっかけに見始める方もいらっしゃいます。またテレビやAmazonのFire TV StickにABEMAのボタンがついていることも視聴のきっかけになりますし、YouTubeの切り出し動画をご覧になって興味を持つということもあるかと思います。
 ニュースやスポーツであればライブ、アニメや恋愛番組といったものであればオンデマンドと、視聴者の好みやライフスタイルに合わせて視聴パターンも選べます。きっかけがこれです、というのがあるわけではなく、ニーズやモチベーションに合いやすいことが、多ジャンル、多デバイスで展開するABEMAの強みかなと思います。
深田:よく見られているコンテンツはどのようなジャンルになるのでしょうか。
大久保:現在スポーツに注力しているので、スポーツをご覧になる方が増えています。アニメも多くの作品をそろえているため視聴者数も非常に多くなります。韓流ドラマやABEMAがオリジナルで作っている恋愛番組は女性視聴者に強く、男性でいえばスポーツ、アニメに加えて、有名タレント起用のオリジナルバラエティですね。
深田:注力されているスポーツの中でも、昨年の「FIFAワールドカップ」は非常にインパクトがありました。
大久保:ABEMAを使うきっかけ作りに大きく貢献したと感じています。「ABEMAで無料中継してくれてありがとう」といった声をたくさんいただき、視聴者の皆さんにも喜んでいただける取り組みだったのではないでしょうか。WAUも伸び、過去最大の成果を収めることができました。実現できた理由としては、「FIFA ワールドカップ」を生中継できるサービスにまで育ててきたことだと捉えています。テレビ朝日さんのご協力があって実現できたことも大きいのですが、高い映像クオリティーで中継を実現した技術力はもちろん、使い続けてくれたユーザーの皆さま、格闘技などで培ったライブ中継のノウハウなど、これまでの積み重ねの結果です。「FIFA ワールドカップ」という大会を皆さまと一緒に盛り上げられたことは、ABEMAにとっても非常に大きな意義となりました。

図表1:テレビデバイスの視聴時間における
ストリーミングの視聴時間の割合(インテージ調べ)

図表2:ABEMAの広告在庫に占めるCTVの割合
(ABEMAメディアガイドより)

コンテンツと連動した新しいフォーマット
デジタルならではの広告体験を創出

深田:スポーツ中継時に画面を分割し、中継映像と広告を同時に配信するスプリットスクリーン型の広告「ABEMA Live Screen Ad」もリリースされました。
大久保:動画だからといってCMが正解とも限りません。スプリットスクリーン広告はコンテンツと連動した情報の届け方であり、新しいフォーマットへのチャレンジでもあります。視聴者やコンテンツに合わせて変化させて運用できるのがデジタル広告の特長ですから、コンテンツを見ながら楽しめる広告の実現を目指しています。
深田:広告の効果測定をしてきた人間からすると、確実に効果が出るだろうと思うのですが、広告主さんからの評価はいかがでしょうか。また今後、コンテンツと広告が切り替わる従来のパターンから、ひとつの画面に共存するこうしたパターンが主流になっていくのでしょうか。
大久保:評価という面では現在調査中ではありますが、広告主さんからはポジティブなご意見をいただいています。定量的にどう現れるかはこれからです。
 こうした新しいパターンが増えていくことは間違いありませんが、これが正解というより選択肢のひとつでしかありません。例えば海外のサービスではコンテンツの始まる前に長くCMを視聴するか、間に短くCMを視聴するかを選べるものもあります。同じCMでもユーザーの視聴体験は変わりますよね。こうしたものも含め、パターンそのものが増えていくと考えています。
 ABEMAにおいて、ライブ視聴ではスプリットスクリーン広告のような「コンテンツを中断しない広告体験」、オンデマンド視聴では「コンテンツの連動による広告体験」が目指していく方向になります。一種のプロダクトプレイスメントではあるのですが、例えば撮影時にはなかった商材をデジタルの編集で加えるなど、コンテンツを邪魔せずに視聴者に情報を届けるといった取り組みにもチャレンジしていく予定です。

メディアで変わるクリエイティブの効果
ABEMA専用のCMを制作

深田:ABEMAさんに出稿した広告主さんの中には、ABEMA専用にCMのクリエイティブを作るというケースはあるのでしょうか。
大久保:そうした事例は多数ありますね。恋愛番組とタイアップしていただいた場合に、番組に近しいクリエイティブのCMにしたり、前シーズンのキャストをCMに起用したり。そうしたお声掛けをいただくことも増えています。
深田:地上波で流したものをABEMAさんにというのは従来からありますが、ABEMAさんで制作したものを地上波で、ということもありますか。
大久保:いくつかの事例はあるのですが、まだ数としては少ないです。ABEMAはリニア編成をしているため、クリエイティブの秒数は比較的使いやすい15秒などで作りますが、ABEMAの番組と連動した内容ということもあり、ABEMAで流すとより効果を得やすいというのもあります。ABEMAに限らずTikTokで流すか、Instagramで流すかによってクリエイティブは変わってくるので、どのようなクリエイティブが良いかについては、メディアの使い方が多面になっている分、複雑になってきていると思います。
 これまでは15秒のCMを作るための制作をしてきましたが、例えば10分の映像を作って地上波向け、ABEMA向け、TikTok向けに編集するというのも考えられますし、自動生成といった新しい技術なども、時代に合わせて生まれてくるのではないでしょうか。

視認性や広告効果の可視化などCTVをどのように評価していくかが鍵

深田:CTVの普及に伴い、視認性や効果測定へのニーズが高まるものと考えられます。ABEMAさんとしてはどのような対応をされていくのでしょうか。
大久保:メディアとしてビューアビリティーなどのチェックは常に意識している部分ではあり、効果測定についても他社さんと連携して可視化を進めています。広告配信と効果計測のソリューションである「ABEMA Ads CTVパッケージ」では、デモグラフィック配信やジオデモグラフィック配信、テレビCMとの連動した配信ができるほか、ブランドリフト、アプリインストール計測、サイト来訪などのコンバージョン計測が可能となります。
深田:CTV広告の展望をどのようにお考えですか。
大久保:日本において伸びていく市場で、CTV自体の販売数はもちろん、視聴ユーザーの規模も拡大し、大きなビジネスチャンスがあります。スクリーンのサイズが大きいことで視聴者への情報の浸透度も高くなり、広告効果の高いデバイスといえます。だからこそ広告の新しいフォーマット、ターゲティングなどに挑戦していきたいと考えています。
 また、CTVをスマホが大きくなったものと考えるか、地上波をデジタル化したものと考えるかでも起点が変わります。デバイスの特性ですが、CTV広告は視聴者がデバイスの前にいても、“ながら視聴”などで画面から目を離すこともあり、これまでのデジタル広告の標準であるインプレッションでは計測しきれない部分がでてくる可能性もあります。
 今でこそスマホ全盛期ではありますが、ガラケーからスマホへのシフトも一気に進み、生活者の情報収集やコンテンツの楽しみ方なども大きく変化しました。変化があれば変化に合わせた扱い方をするのがデジタルの主流ですので、今後CTVをどのように評価するかが、僕らが向き合うべきテーマだと考えています。
写真:髙野宏治
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。