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JAC AWARD 2022 グランプリ受賞者のインタビュー 【ディレクター部門 小林洋介氏】


 一般社団法人 日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)が主催する『JAC AWARD』は映像文化の発展を目的に、映像クリエイターの発掘・人材の育成・映像技術の向上や若手のモチベーションアップを図り、制作サイドの見地から表彰を行う賞として2007年に設立された。2022年度より制作実費の上限を設けた「ディレクター個人応募部門」が新設され、映像コンテンツ制作を支えるすべての人を対象としたアワードへと進化を遂げている。
 本記事では各部門のグランプリ受賞者から小林洋介氏(株式会社東北新社/OND°)に受賞対象となった仕事の概要や広告制作に携わる上で大切にされている考え方、挑戦したいことなどについて語っていただいた。
【 CM INDEX 2023年4月号に掲載された記事をご紹介します。】

クライアントと広告を見ている人の両方を幸せに

小林洋介氏
株式会社 東北新社
OND°
ディレクター
Spoon.での制作経験を生かし、2019年東北新社入社後ディレクターとしてデビュー。代表作にダイハツ『ムーヴキャンバス』、サントリー『ジムビーム』など。短編映画『viewers:1』が国内外で受賞多数。
受賞作品「幸せの神」
自らを“幸せの神”と称し、人々にさまざまないたずらを仕掛ける男性のドキュメンタリー映像という設定。小さな不幸との対比を通して「しあわせ?」というメッセージを印象づけた。

— 受賞作品「幸せの神」の制作意図について
 “幸せの神”もしくはそう名乗る男に密着取材をしたフェイクドキュメンタリーで、彼が「ちょっとした不幸がないと幸せに気付くことができない」と語りながら人々に「幸せ」をもたらすため、小さな「不幸」を作り出していくというストーリーです。
 「しあわせ?」という課題に対し、自分なりに「幸せ」と真剣に向き合った結果、「分からない」ということにたどり着きました。そこで別の角度から考えようとしていたら、黒澤明監督の『天国と地獄』の「不幸な人間にとって幸福な人間を不幸にするのはなかなか面白いことなんですよ」というセリフがふと浮かび、「不幸」を軸にすることを思いつきました。ただそれだけでは後味の悪い作品になってしまうので、プロデューサーと話し合う中で“幸せの神”という設定が生まれました。変だけど悪い人ではなさそうで、笑顔がとにかく魅力的というキャラクター設定は決まったものの、難しい役柄のためキャスティングが重要でした。ドラマなどでよくお見かけしていた内野謙太さんに出演していただけたのは本当に良かったです。特に最初の「どうも、神です」と名刺を差し出す場面は“一点の曇りもない良い人”だとホラーになりかねないといいますか、内野さんとともに試行錯誤をしながら人物像を定めていきました。
 ストーリーの後半、「ご自分は幸せですか?」と聞かれた内野さんがカメラに飲み物をかける場面は、転換点としてインパクトのある映像にしたかったので、見ている人に突然、自分が巻き込まれる感覚を与えるような映像作りをしました。明確な答えが出ないまま「しあわせ?」と投げかける、ある意味で不親切なラストです。短い時間の中でも分かりやすさや伏線の回収などが求められる広告業界のコンテストでは評価されないと思っていたので、グランプリと聞いて大変驚きました。

コントラストやギャップを作り人の心を動かす映像に

— 今後の展望についてお聞かせください
 本作だけでなくドキュメンタリータッチの演出をする機会に恵まれ、ウソなのにリアルな手触りがあるような“本当っぽいウソ”を描くことには自信がついてきました。これから挑戦してみたいのは巨大建造物や怪獣が登場する映像で、巨大感と実在感を両立させることには並々ならぬ情熱があるんです。いつも心掛けているのはどこかにコントラストやギャップを作ることで、例えば暗い話なら明るく、明るい話なら暗く撮りたい。シンプルでも単純でもない、見た人の心の奥の方で感情を動かす映像を作りたいですね。
 僕はクライアントと広告を見ている人の両方を幸せにすることが、広告の仕事に携わる上で大切にすべき誠実さだと思っています。そのためには自分が面白いと思える作品を作りたいですし、理想は関わった人すべてがハッピーになる仕事にしたい。簡単なことではないので、きっとこれからも悩み続けることになると思いますが、一つひとつに向き合って成長していきたいです。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。