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Focus:自動車業界のコミュニケーション戦略 株式会社SUBARU


「安全」の先にある「愉しさ」を届け続ける

大きな変革期にある自動車業界各社の取り組みに迫る特集企画の第2弾として株式会社SUBARUにお話をうかがった。昨年11月に同社初の小型SUVである『レックス』を発売したほか、“3眼アイサイト”を搭載した新型クロスオーバーSUV『クロストレック』も発表している。同社の小島敦氏に「2030年死亡交通事故ゼロ」に向けた取り組みや広告コミュニケーションについてお聞きした。
(取材:2023年2月15日)
【 CM INDEX 2023年3月号に掲載された記事をご紹介します。】

インタビュイー
小島敦氏
株式会社SUBARU
国内営業本部
マーケティング推進部長

「2030年死亡交通事故ゼロ」に向けて
ドライバーの命を第一に考える取り組みを

— ものづくりに対するSUBARUのお考えとは
 当社は航空機メーカーが原点で、機体の欠陥やトラブルはパイロットが命を落とすことに直結しますから、飛行機の製造ではパイロットの命を守ることを第一に安全性能を追求してきたという歴史的な背景があります。また昭和33年の『スバル360』の発売に当たっては、当時の日本には衝突実験や衝突安全という考えはなかったと思いますが、SUBARUは衝突時の安全性を試験していました。そういったものづくりに対する価値観は現在まで引き継がれており、生産から販売まで安全に重きを置いたサービスの提供につながっています。
 我々は「2030年死亡交通事故ゼロ」を目標に掲げています。これはSUBARU車乗車中の死亡事故およびSUBARU車との衝突により歩行者・自転車などの死亡事故ゼロを目指すものです。実際に10年で死亡重傷事故は50%減少しており、JNCAPやアメリカのIIHS(米国道路安全保険協会)の衝突試験などでもトップのレーティングをいただいています。
 2030年死亡交通事故ゼロに向けた取り組みの中でも、SUBARU独自の運転支援システム『アイサイト』の開発には長年力を入れています。乗車する人々の命を守るには車体、シートベルト、エアバッグの性能の向上ももちろん必要ですが、アイサイトは事故を未然に防止できる機能です。アイサイトで助けることができる領域が増えるほど、運転をする人なら誰でも少なからず経験したことのあるヒヤッとした事態を減らすことが可能です。またドライバーだけでなく歩行者も守ることで、ドライバーが加害者になるリスクも低くなります。さまざまな新しい技術が搭載され複合的に安全性の向上に寄与しているため、アイサイト単体でのこれまでの実績に関する検証データを示すにはまだ時間がかかりますが、アイサイトによってドライバーのストレスや疲労が軽減しているという事実は高く評価いただいています。

SUBARUの強みを生かしたレックスとクロストレックを新たに展開

— 昨年11月には小型SUVの『レックス』を発売されました。反響などいかがでしょうか
 『レックス』はダイハツさんからOEM供給を受けている車種で、トヨタさんの『ライズ』とダイハツさんの『ロッキー』の兄弟車です。ライズやロッキーをコンパクトカーとして認識されている方が多い中、アウトドアスポーツやレジャー向きのSUVに強いブランドだという自分たちの強みを生かして参入することにしました。
 レックスはロードクリアランスの高さも含めてきちんとSUVとして使える機能性や、アウトドアには欠かせない大容量のカーゴルームに加え、SUBARUが大事にしている安全性にも長けています。一方でお客さまだけでなく販売店のスタッフからも好評をいただいているAWDや水平対向エンジンといった、当社が連綿と培ってきたハードウェアの技術が搭載されていません。そのため、レックスをSUBARUから販売するには、当社のラインナップとしてしっかり育てていくんだという強い意志を、我々の強みと合わせて自信を持って社内外に伝えていく必要があると考え、デイキャンプを楽しむ家族を描いたCMを制作しました。
 受注数は当初の計画をかなり上回っており、手応えを感じています。コンパクトな車体がお客さまのニーズとマッチし、これまで水平対向エンジンを搭載した当社の車を使用していた方がレックスに乗り換えていただいたというお話もうかがっています。

レックス
コンパクトなボディと低燃費でありながらストレスのない出足と加速性能を備え、普段の街乗りから軽い遠出まで楽しめる。予防安全機能の『スマートアシスト』で優れた安全性も両立した。
「REXと冒険しよう」篇(2023年1月1日オンエア開始)
恐竜のフィギュアを持った少女ら3人家族が同車でアウトドアに向かう様子に「はじまったのは新しい毎日だった」といったナレーションがかかり、釣りやバーベキューを楽しむ姿や「REXと冒険しよう。」のコピーを映した。
— 新型『クロストレック』も発表され、CMもオンエアされています
 昨年の12月に『クロストレック』の受注を開始したのですが、生産上の制約で販売店に量産モデルを置けず、しばらくお客様に実際の商品をご覧いただけていない状況が続いていました。そうした中で多くの受注をいただいていることに大変うれしく思います。
 クロストレックは国内で初めて“3眼のアイサイト”を搭載しています。これまでの2つのカメラに加えて広角単眼カメラを追加することで、カメラで認識できる範囲を大幅に拡大しました。人間も視野が狭いわけではないのですが、運転操作の際に注視できている視界は限られていますし、一方に気を取られていると認識できる視野はさらに狭くなりますよね。対してアイサイトは、カメラで見えている範囲すべてを正確に認識できるため、例えば交差点での右左折時の死角から進んでくる歩行者など、広範囲で事故を防ぐことができます。
 クロストレックはもともと『SUBARU XV』という車名で販売していましたが、CMの評価が高かったとしても車名の認知度が追いつかない状況は調査でも確認できていました。そのため認知度向上を目的にこれまでの記号のような車名から、覚えてもらいやすい車名に変更したんです。結果、グローバルで販売している車名に統一しましたが、クロスオーバーとトレッキングを合わせた車名は同車の特徴も表現できているのではないでしょうか。
 CMはBGMに採用したBUMP OF CHICKENの『天体観測』を含めてポジティブな反響をいただいております。このカテゴリーの車に興味を持っていただけるお客さまはアウトドアを楽しんでいらっしゃる方が多いです。アウトドアは未経験でもアクティブに日々を過ごしたい方も多くいらっしゃるはずで、「ジブン自在SUV」というキャッチコピーにはそういった皆さまへの「一緒に一歩を踏み出してみましょう」という我々の思いを込めました。調査ではCMをオンエアしたタイミングでオフィシャルサイトの閲覧数が増えていることが確認できており、視聴者の皆さまに受け入れられていると実感しています。

クロストレック
国内のSUBARU車で初めて搭載された“3眼のアイサイト”による高い安全性能を実現。進化した本格的なSUV性能と躍動的なスタイリングが特徴で、都市も郊外も気軽に運転を楽しめる。
「駆ける、クロストレック」篇(2022年12月1日オンエア開始)
BUMP OF CHICKENの『天体観測』をBGMに、ビル街で男性が同車に乗り込む。続けてキャンプや登山をする彼や山道を走り抜ける同車を映し、「好奇心、駆ける、クロストレック」のコピーを重ねる内容。アイサイトの搭載も訴求した。
— 今後のコミュニケーションに関する展望について
 商品の良さは実際に乗車いただいているお客さまには一番伝わっていると思いますが、その手前の方々にどれだけ興味を持っていただけるか、共感していただけるかが広告の重要な役割だと考えています。CMは現在も圧倒的なリーチ力があり、さまざまなCMが流れる中で人々が「おっ」と目を引く工夫をどれだけ盛り込めるかが大事です。ただCMだけで我々の思いやメッセージは伝えきれるものではありませんので、デジタル広告やオウンドメディアを今後も活用してまいります。その入り口として、CMは最も大きな力を持っているのではないでしょうか。
 衝突で大破した車から降車する母娘を映したCM「一つのいのち一台のSUBARU『いのちをかけて』」篇は、各国のお客さまから事故に遭った車の写真とともに「SUBARUの車のおかげで助かった」という感謝のお手紙をいただいたことから発想して制作しました。ストレートな表現でしたので企画段階では社内で賛否が分かれましたが、我々は2030年の死亡交通事故ゼロに向けて一丸となって取り組んでいる事実がございますので、自信を持って展開しました。一方で、「あなたとクルマの物語」をテーマに展開する「Your Story With」シリーズは、当社の車とドライバーやその周りの人々の心温まるストーリーを描くもので、機能性の訴求から離れて、我々の大事にする信念を伝えています。SUBARUブランドの思いに共感いただくという意味ではブランディングにもつながるかと思いますので、我々のメッセージを伝えるコミュニケーションとして引き続き展開していきたいですね。

SUBARUらしさを大切に
お客さまへ「安心と愉しさ」を提供

— “SUBARUらしさ”についてお聞かせください
 やはりSUBARUのコミュニケーションのテーマとして掲げている「安心と愉しさ」でしょうか。我々は「安心」と「愉しさ」を別のものとは捉えておらず、安全性能の追求の先に愉しさがあると考えています。例えばジェットコースターは安全だと認識しているから楽しめますよね。車も同じで、ドライバーや同乗者の方々が安心して乗車できなければドライブは楽しめません。
 もう一つの企業らしさは「誠実さ」だと思っています。広告のためにやってもいないこと、思ってもいないようなことは言わない。CMのメッセージを考える際には、自分たちとはそもそも何者か、どのようなことに力を注いできたのかを毎回振り返っています。今後も社員一同ものづくりに対して誠実に取り組むとともに、2030年の死亡交通事故ゼロという目標達成に向けて邁進してまいります。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。