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JAC AWARD 2022 ー広告映像のこれからを担う才能ー 【中島信也氏】


 一般社団法人 日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)が主催する『JAC AWARD』は映像文化の発展を目的に、映像クリエイターの発掘・人材の育成・映像技術の向上や若手のモチベーションアップを図り、制作サイドの見地から表彰を行う賞として2007年に設立された。2022年度より制作実費の上限を設けた「ディレクター個人応募部門」が新設され、映像コンテンツ制作を支えるすべての人を対象としたアワードへと進化を遂げている。
 本特集では審査委員長を務めた中島信也氏と各部門のグランプリ受賞者のインタビューを順次掲載。第1回となる今回は中島氏にJAC AWARDの意義やこれからの広告制作などについて語っていただいた。
【 CM INDEX 2023年2月号に掲載された記事をご紹介します。】

“新しい幸せ”へ向かう 広告コンテンツ制作

審査委員長インタビュー
中島信也氏

株式会社東北新社 顧問/エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
なかじましんやオフィス CMディレクター/クリエイティブ・ディレクター
1959年福岡生まれ大阪育ちの江戸っ子。1982年武蔵野美術大学卒業、東北新社入社。代表作にカップヌードル「hungry?」、民放連「違法だよ!あげるくん」、リクルート「AirPAY オダギリジョー」「AirWORK 松本人志・山田孝之」など

JAC AWARDは人を育てる場
時を経て人材の成長を実感

— JAC AWARDの意義について。また2007年の設立当初と現在で変化はありますか
 JAC AWARDは人を発掘して人を育てる場であり、若手が情熱を注いでひとつの広告映像を作るという点に変わりはありません。我々の仕事はコミュニケーションを作ることですから、いつの時代もアイデアや没頭して作る力が必要不可欠なのです。
 一方で、設立当初まだ駆け出しだった若手がJAC AWARDを受賞し、今は審査員をしている。そういう点では時間の経過と同時に、やはり人は育つということを実感します。良い点を褒めて評価し、才能をどんどん伸ばしていく場、これがJAC AWARDだと思っています。
 2016年からはクリスマスパーティーとして開催していたのですが、コロナ禍によって集まれなくなったことは残念です。以前は同じ仕事をしているにもかかわらずコミュニケーションの場がなかったんですね。JACの制作者だけが集まるパーティーには自分たちの会社を応援する“会社対抗歌合戦”のような部分もありつつ、それぞれに異なる各社のカルチャーが融合し、熱気にあふれていました。普段は話せないことが話せましたし、貴重な情報交換の場になっていたと思いますので、早く復活させたいと願っています。
 ただリモートができる環境になりましたので、審査会のリアルタイム配信を前回から実施しています。以前からこの審査には学びがあると感じており、会員社向けに見逃し配信期間を設けていたのですが、結果を知った上で見るのと、まだ受賞者が決まっていない段階で見るのとでは緊張感がまったく異なります。審査委員同士の貴重な話し合いや審査の経過を共有できるようになったことは良かったと思います。

見落とされていた才能の発掘を目的に
個人応募できる部門を新設

— 本年度は「ディレクター個人応募部門」が新設されました
 「ディレクター部門」は誰もが応募できるわけではなく、大手になれば社内で予選を行っていたり、上司からの推薦があったりと、各社で選ばれたディレクターの作品が中心となります。これまでも自主的に制作した作品を応募するケースはありましたが、部門として独立させることで、見落とされていた才能をより広く見つけられるのではと考えて設立した部門です。この部門では企画演出部の方だけでなく、撮影部や制作部、バックオフィスの方も応募が可能ですので、若いディレクターにとって刺激になるという一面もあります。
 結果としてディレクター個人応募部門はフレッシュな切り口ながら粗削りな部分が見られた一方で、ディレクター部門はスキルや完成度の高さが際立ったというのが個人的な感想です。
 両部門とも「しあわせ?」という共通のテーマだったのですが、「幸せ」をストレートに表現した作品もあれば、「そもそも幸せはない」という視点で描く作品もあり、作り手にとってそれぞれ物差しが異なる難しいテーマだったと思います。審査する我々も悩む中で、ディレクター部門のグランプリを受賞した小林洋介さんの作品※1はテーマに対して個人的な思いを伝える以上に、見る人を楽しませるというエンターテインメントに昇華していました。人を育てるJAC AWARDの意義として、小林洋介というひとつの柱となって業界を引っ張っていくタレントを発見できたことは大きいのではないでしょうか。ディレクター個人応募部門のグランプリに選ばれた畑野亮さんの作品※2は企画の切り口も素晴らしく、ひとりで制作したとは思えないレベルの見応えのあるクオリティーで、これからが期待できますし、どんどん応援していきたいですね。
※1. ディレクター部門 グランプリ「幸せの神」小林洋介氏(東北新社)
自らを“幸せの神”と称し、人々にさまざまないたずらを仕掛ける男性のドキュメンタリー映像という設定。小さな不幸との対比を通して「しあわせ?」というメッセージを印象づけた。
※2. ディレクター個人応募部門 グランプリ「ささやかな幸せ」畑野亮氏(電通クリエーティブX)
同じ部屋を舞台に、一緒に食事をするゾンビの夫婦と多忙な生活ですれ違いが続いていた過去のふたりをそれぞれ描き、「人間らしい暮らしってなんだろう」と問いかけた。

部門の拡充を重ねることで
役職・地域を越えたアワードへと進化

— 2021年に設立された「ベストプラクティス部門」についてお聞かせください
 プロデューサー、プロダクションマネージャーの部門は大きなキャンペーンや話題作を手掛けた方にスポットが当たる傾向があります。また、我々の仕事には必ず制約があり、昨今は厳しい予算繰りの中でクリエイティビティーを発揮することが求められる機会も少なくありません。壁がある中でいかにクリエイティビティーを発揮したかを評価するべく、500万円という予算の上限を設けたのが「ベストプラクティス部門」です。
 限られた予算のCMは目に触れる機会が少ないケースがほとんどですので、プロフェッショナルである同業者へのお披露目の場でもあり、褒め合う場でもあります。また地方のCMは東京に比べてどうしても予算が限られるのですが、JACの会員は全国にいらっしゃるため、予算の上限を設けることでエントリーしやすくするという意図もありました。実際に地方からのエントリーは大きく増加しており、役職や地域を超えて広く盛り上がれるアワードに近づいていると感じています。

広告コンテンツは“プロダクツ”
だからこそプロデューサー育成が重要

— JAC AWARDでプロデューサーの育成に力を入れる理由とは
 プロデュースはどのような企画であれ、それを実現させていくためになくてはならない仕事で、監督をはじめとしたスタッフをアサインし、予算やスケジュールをマネージメントしています。目には見えにくいですが、アウトプットの質を左右する非常に大きなスキルです。演出、撮影、照明、美術だけではなく、プロデュースという磨くべき仕事の価値を高めていきたいんですね。
 僕たちが作る映像はひとつの製品、プロダクツで、それを作るのがプロダクションです。プロデューサーが核となってスタッフの力を結集し、ひとつのCMを作り上げていきます。働いているすべての人が充実したマインドで仕事に向き合える環境を作るために、気遣いやコミュニケーションは不可欠です。生の人間力が問われる仕事であり、一朝一夕に育てられないからこそ、時間をかけていくしかありません。
— 広告映像の世界に若い才能が次々と誕生しています。若い世代に期待されることとは
 今は世の中の物差しが大きく変動する過渡期だと思うんですね。これから若い世代が作り上げていく新しい社会、新しい価値観、新しい豊かさ、新しい幸せへと変わろうとしていると。「若い人たちはこれから大変だよね」といった議論がありますが、新しい物差しで企業も広告も新しい社会の実現に向かっていくという、前向きで大きなエネルギーが世界に満ちていると思いたいんです。

人の心を動かす映像という仕事は
“幸せ”というゴールに貢献できる

 そうなったときにコミュニケーションを作る仕事、人の心を動かせる映像という仕事が、新しい幸せな世界を作ることにつながると希望を胸に抱いてほしい。バブル期に海外ロケを楽しんでいた先輩たちとは異なり、若い世代が広告制作の真の喜びや価値を感じられるようJACとして業界をリードしていきたいと考えています。
 戦後のどん底から経済的に豊かな社会となりましたが、さまざまな自然災害やコロナ禍を経て人の心はある種のどん底にあるのではないでしょうか。社会やそこで暮らす人々の幸せを高めるにはどうしたらいいかを考えなければ、企業も生き残れないと思います。そうした企業をコミュニケーションでサポートするのが広告業界であり、メディアの環境が変わっても、目指すべきゴールは幸せであることには変わりありません。
 僕は40年間この業界で育てていただきましたので、これからは業界で働く若い人たちを盛り上げながら幸せな社会を作っていくという夢に向かって、全力で走り続けていくつもりです。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。