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Creator Interview 山﨑博司氏(株式会社博報堂)


個人の存在意義が社会を変える力に

2021年のクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞した山﨑博司氏。日本マクドナルドのハッピーセット年間キャンペーン「みんなで! どう解く?」といった幅広い領域で大きなムーブメントを生み出したクリエイティブワークの狙い、社会課題の解決に向けた仕事に取り組む上で大切にされている考え方などをお聞きした。
(収録:2022年5月16日)
【 CM INDEX 2022年7月号に掲載された記事をご紹介します。】

山﨑博司氏
株式会社 博報堂 クリエイティブコンサルティング局
コピーライター/クリエイティブ・ディレクター
2010年株式会社博報堂に入社。TBWA\HAKUHODOへの出向を経て、現部署。「言葉の力で、社会を動かす」をモットーに、コピーを軸にした統合キャンペーンや社会課題解決業務を数多く手掛ける。受賞歴にTCC賞、TCC最高新人賞、ACCグランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤーなど。著書に絵本『答えのない道徳の問題 どう解く?』1、2巻(ポプラ社)。
— ハッピーセット年間キャンペーン「みんなで!どう解く?」など、教育関連の取り組みについて
 日本マクドナルドさんのハッピーセット年間キャンペーンは昨年実施したものですが、この企画の発端は8年前にさかのぼります。入社4年目の頃、「新聞広告クリエーティブコンテスト」へ出品するために同僚のアートディレクター、小畑茜と一緒に新聞広告を作ったんです。「しあわせ」という募集テーマについて考えるうちに「幸せってこういうこと」と決めつけるのではなく、多角的なものの見方を提示できないかと思いました。そこで誰もが知る昔話を題材に「めでたし、めでたし。」以外の視点もあるのではと立ち止まって考えてもらえるよう、桃太郎に退治された鬼の子どもが泣いているイラストに「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」のコピーを添えた新聞広告を制作したんです。本作が最優秀賞を頂戴して以降は国会で取り上げられたり、大学の入試問題や先生向けの書籍に使用されたりと多方面から反響をいただく中で、『桃太郎』発祥の地である岡山県のとある中学校の先生から「この広告で絵本を作れないか」というご依頼がありました。 うれしいお話でしたが、我々が新しい物語を作るよりも、「多角的な視点を持つ大切さについて、生徒さん自身の考えを深めるような授業を一緒に作りませんか」と提案させていただきました。もちろん僕や小畑にとって中学校の授業を作ることは初の試みで苦労もありましたが、広告の作り手としての知見やアイデアを生かしながら先生方と協力してワークショップ形式の道徳の授業を行ったところ、朝日新聞の天声人語などで紹介され、日本全国の学校へ同様の授業が広がっていきました。
— “答えのない道徳の問題 ”をテーマとした絵本作りについてお聞かせください
 この授業作りの取り組みを通して教育現場の課題を知るうちに、もっと幼い頃からこうした“答えのない問い”について考える機会があるといいなと思いはじめました。そして我が家に子どもが生まれると、友人と子育てや教育について話すことがますます増えていきました。親が子に「いじめはダメ」と注意するのは簡単ですが、その理由を話し合う方がもっと大切だと思うんです。そこで「どうして正義のヒーローは、悪者を殴っていいんだろう?」などの問いについて親子の対話を深めるきっかけになればと、TBWA\HAKUHODOへ出向中に同僚の木村洋、二澤平治仁とポプラ社さんに企画を提案したところ、絵本『答えのない道徳の問題 どう解く?』を2018年春に発行することになりました。発売後は一般の親御さんに加え教育関係者にも注目いただき、現在は日本国内の3分の1に当たる約7000の小学校の図書館に導入されています。
 その後、こうした活動を企業の方と一緒に進めていくのはどうかなと考え、日本マクドナルドさんにお声がけさせていただきました。そして生まれたのが『みんなで!どう解く?』というハッピーセットの絵本です。この絵本はおよそ1年をかけて日本全国の子どもたちと一緒に作ったもので、ワークショップやTwitterなどを通して答えのない道徳の問題や解答を募集し、完成しました。またこの絵本をもとに小学校の授業で使用できるオリジナル教材も制作し、日本マクドナルドさんの特設サイトで無償提供しています。現在までに約1000校の授業で使用されるなど、好評をいただいています。
 近年はSDGsをテーマにした広告が目立ちますが、1社だけの力で社会を変えるのは難しいように感じます。今回でいえば日本マクドナルドさん、ポプラ社さん、朝日小学生新聞さんや教育関係者の皆さまそれぞれにパートナーとして企画に賛同いただいたからこそ、世の中へ広がっていったのではないでしょうか。
— 広告の枠を超えたコミュニケーション活動が高く評価されています
 LIFULLさんが運営されている不動産・住宅情報サイト『LIFULL HOME’S』内のサービス「FRIENDLY DOOR」も評価いただいた仕事です。あらゆる人に開かれている住宅市場ですが、高齢の方、外国籍の方、LGBTQの方など“住宅弱者”と呼ばれる方々は、「入居後のリスクが大きい」などの偏見からオーナーや不動産会社に敬遠されてしまう例も少なくないそうです。そこで、住宅弱者の方と理解ある不動産会社をつなぐサービスを作れないかとLIFULLさんが考えられ、そのコンセプトやネーミングを担当させていただきました。
 このほか日本全国のさまざまな地域や施設で導入実証実験を展開した経済産業省の電動車いす普及キャンペーン「のろーよ!デンドー車いす」などにも携わっています。マス広告の仕事も担当していますが、今後も業界の枠にとらわれない柔軟なスタンスを大切にしていきたいですね。
— 課題解決に向けた仕事に取り組む上で、大切にされている考え方をお教えください
 先日、僕の師匠であるコピーライターの井口雄大さんから「口説かれるより、口説きたい」という糸井重里さんの言葉をお聞きしました。というのも、広告クリエイターはクライアントや広告会社の営業から「このキャンペーンを一緒にやりませんか」などと仕事を依頼いただくケースが多いんですね。いわば“口説かれる”立場にいるのですが、「山﨑くんは“口説く欲”が強いよね」と井口さんに言っていただいたんです。たしかに受け身でいるより自ら周囲を口説いて回る方が楽しいですし、その方が濃密なコミュニケーションが生まれると感じています。後ろ向きな意味ではなく「ひとりでは何もできない」ので、同じ志を持つ人や企業を巻き込み、仲間を増やしていく力がこれからの課題解決や広告作りにはますます必要とされるのではないでしょうか。
 またパーパスは企業やブランドだけが持つものではなく、クライアントの担当者や僕たち広告の作り手といった一人ひとりの内なる声や問題意識、いわば“パーソナルパーパス”が重要だと思います。個人の心の底から湧き出る思いや熱は周囲を巻き込みながら拡張し、業界の垣根を超えて思いがけないゴールへ導いてくれる。一人ひとりの存在意義が課題解決の原動力として、社会を変える力になると信じています。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。