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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【緑川徹氏】(第2回/全2回)


挑戦を続ける姿勢が愛される音楽を作る

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画の第5回。今回の対談相手はKDDI『au』の「三太郎」シリーズや妻夫木聡が“ジャンボ兄ちゃん”を演じる『ジャンボ宝くじ』のCMなど数多くのヒットCMを担当する音楽プロデューサーの緑川徹氏。映像作品における音楽の役割や、音楽を作る上で大切にされている考え方などを語っていただいた。(収録:3月7日)
【 CM INDEX 2022年4月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第2回/全2回)】

緑川徹氏 株式会社メロディー・パンチ 代表 音楽プロデューサー
1996年からCM音楽に携わり、2005年にメロディー・パンチ設立。手掛けた主なCMにau、SoftBank、KIRIN、サッポロビール、SUNTORY、アサヒ飲料、大塚製薬など。映画は『ハルチカ』(17/市井昌秀監督)、『羊の木』(18/吉田大八監督)など、ドラマは『誰かが、見ている』(20/三谷幸喜作)、『おかえりモネ』(21/安達奈緒子作)など。

見市沖氏 株式会社 電通 zero クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
— リクエスト通りはつまらない 王道を外してエッジを利かせる
緑川:CM音楽に携わってもう25年になりますが、毎回面白いんですよ。
見市:ご自身ではその理由をどのようにお考えですか。
緑川:常にチャレンジしているからかなと思います。例えば「ジャズっぽい曲を」という要望をいただいたとしても、あえて現代音楽を忍ばせてみるとか。アイデアを膨らませた方が広告の世界観がより輝いて見えることもあるんです。
見市:なるほど。CMの企画を考える際にもクライアントからのオリエンテーションに正しく打ち返すより、ちょっとひねった答えを出した方が喜ばれたり、視聴者をハッとさせる力が強くなったりする場合があります。それと同じようなものでしょうか。
緑川:もし少しでも突出したものにしたいなら、王道を外した方が格段に面白くなりますね。コミカルなテイストのコマソンを作るとして、あえてベースラインを抜いて不安定さを出して尖らせるとか、通常は入れるコード楽器を削ることで印象を少しだけ変えるとか。
見市:ベタなものを作るにしても、「AとBを掛け合わせたら新鮮に聞こえる」みたいなことを突き詰めるのですね。
緑川:そうです。一見ダサいけれど実はエッジを利かせているみたいなことを、ずっと飽きずにやっています。
見市:僕が言うのもなんですが、王道路線を素直に受け入れられる人だとできないことかもしれないですね。予定調和や当たり前を一度疑ってみる視点をお持ちの緑川さんだからこそ、発見できるずらし方があるように思います。
 良い仕事をする上での、監督やクリエイティブ・ディレクターとの関係の築き方をうかがえますでしょうか。
緑川:やっぱり信頼いただけていることが伝わってくるスタッフとの仕事は羽を広げて挑戦しやすいですね。そうやって伸び伸びと作ったものの方が、結果として長く愛され、ヒットしていると思います。
見市:信頼って当たり前のようにも感じますけど、本当に大事ですよね。
緑川:制作チームの空気感って、完成したCMからもにじみ出るのではないでしょうか。視聴者はそういうものを敏感に感じ取るので、CMが好かれる要素として大切だと思いますね。ただ、信頼といっても提案した音楽を無条件に受け入れてほしいわけではなく、納得できないことがあれば素直に伝えていただけるような間柄が理想です。ふに落ちない点を一緒に突き詰めて、認識の食い違いがあればすり合わせながらお互いに納得できるものとなるよう軌道修正をする。その工程の必要性を認識しているので、リテイクに対してそれほどネガティブな気持ちにはならないんですよ。それなりに傷ついてはいるんですけど(笑)。
見市:それってすごいことですよね。提出した音楽は一度ご自身で納得したものなのに、それに対して監督やCDが出す意見を緑川さんはフラットに聞いて、さらに新しい提案をしてくださる。非常に柔軟なスタンスだと感じます。
緑川:クリエイター同士として純粋に納得できるかどうかという議論はするべきだし、音楽は言語化できない分、ピンと来るものと来ないものがはっきりしていると思うんです。言葉で相手を説き伏せても仕方がないというか。聞いた瞬間、「これいいじゃん」と好きになるのに理屈はなくて、ピンと来ないならもう1回作る。その考え方は自分の制作スタンスとしてずっと持ち続けていますね。
見市:説得しなくても、制作チーム全員が一瞬で気に入る企画やCMソングってありますよね。
緑川:アイフル※1の「♪愛がいちばん アイフル」という歌も現場で演歌調に歌ってみたら、大爆笑が起きたんです。『からだすこやか茶W』※2については、30パターンほどの案をクリエイティブの皆さんに聞いていただいて満場一致で現在のフレーズに決まりました。制作段階では分かりませんでしたが、聞き直したら確かに一番良かったですね。
見市:緑川さんとは何度もお仕事をさせていただいていますが、提案いただくものの中に「あ、これだな」とか「これいいな」という音楽が必ずあるんですよね。だからまたお願いしたくなるんです。
 CMはストーリーや設定、コピーなどさまざまな要素で成り立っていますが、なかでも音楽の重要性は群を抜いていると思います。緑川さんはCM音楽の役割をどのように考えられていますか。
緑川:企画によって異なりますし、音楽だけがすべてを決めるわけではありませんが、音楽が映像の見え方をガラッと変えてしまうのは事実ですね。同じ映像でも合わせる音楽によって、心に迫る感動的な作品にもなれば、とにかく格好良い作品にもなる。シズルCMを例にすると分かりやすいですよね。
見市:シズルしかないCMの音楽は、映像と合わせてみるまで分からないこともあって本当に難しいですよね。オフラインを見て、音楽を作り直したくなることはありますか。
緑川:OKになったものをゼロベースから作り変えることはありませんが、より画に合うよう若干調整させていただくことはあります。限られた予算であってもなんとか工夫してストリングスを1本入れてみたり。こうした繊細なクオリティー管理が作品の世界観の良し悪しを左右する可能性があるので。
見市:企画がCMにとっての骨だとしたら、それを増幅してくれるのが音楽ですね。
緑川:音楽の持つ力とそれが及ぼす影響に責任を感じているからこそ、納得できるまで何度でもブラッシュアップを重ねているんだと、お話ししながらあらためて気付きました。
※1. 「そこに愛はあるんか」をキーワードに、老舗料亭の女将役の大地真央と板前役の今野浩喜の掛け合いをコミカルに描くCMシリーズ。CD、企画、コピーを山崎隆明氏が務める。
※2. 日本コカ·コーラ『からだすこやか茶』のCMで、モロ師岡と浅利陽介、指原莉乃と大久保佳代子らが出演した。「♪からだすこやか茶W〜」というCMソングで商品名を訴求した。
— 自分の役割は“良い音楽を作ること” 信頼に全力で応え続ける
見市:昨年の朝ドラ『おかえりモネ』や吉田大八監督の手掛けた『騙し絵の牙』といった映画など※3、CM以外のお仕事も数多く担当されていますが、音楽プロデューサーとしてメディアによってスタンスに違いはありますか。
緑川:スタンス自体はほとんど変わりません。若い頃は映画に憧れていたこともありますが、今はどのメディアでも垣根なく考えていますし、どれも面白くて、どれかひとつだけに携わり続けるのもつまらない気がします。
見市:CMは人々が好んで見るものではないので、まず視聴者を振り向かせる必要がありますよね。映画やドラマは能動的に視聴される映像作品なので、求められる音楽も変わってくるのではと思っていました。
緑川:CMも映画もヒットすることがひとつのゴールだとは思いますが、音楽だけがその作品の成否を決めるわけではないと思うんです。CMであれば出稿量のボリュームによって世の中への届き方が変わることもありますので。どんな作品においても自分の役割は良い音楽を作ることだけだと考えています。
見市:一つひとつの企画や演出に対して、「音楽は何ができるのか」と向き合っていらっしゃるんですね。
緑川:だからこそ、どの仕事も毎回面白いのだと思います。それがCMであれ映画であれ、「どんな音楽がいいんだろう」などと考えて作り上げていくことが好きなんです。
見市:今後チャレンジしてみたいことはありますか。
緑川:現場が楽しいという気持ちはこの仕事を始めた頃から変わっていません。これからも一つひとつの仕事に真摯に向き合いながらチャレンジを続け、指名いただいた方々の信頼に全力で応え続けたいと考えています。
※3. 清原果耶主演の連続テレビ小説『おかえりモネ』では音楽家の高木正勝らとタッグを組んだほか、映画『騙し絵の牙』『羊の木』など多くの吉田大八監督作品で音楽を担当。吉田氏演出の凸版印刷のCMも手掛けた。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。