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2021 61st ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS 第1回/全2回


フィルム部門受賞作に見る広告の可能性

一般社団法人 ACC(All Japan Confederation of Creativity)は「2021 61st ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」の受賞作を発表するオンラインイベント「TOKYO CREATIVE CROSSING」を2021年10月27、28日に開催した。同アワードはテレビ、ラジオCMの質的向上を目的に1961年より開催されてきた広告賞「ACC CM FESTIVAL」を前身とするもので、日本最大級のアワードとして広く認知されている。本特集ではフィルム部門受賞作の紹介とともに同部門審査委員長の細川美和子氏のインタビューを掲載。審査会の模様や受賞作の傾向をはじめ、これからの広告コミュニケーションの可能性などについてお話をうかがった。
【 CM INDEX 2022年1月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第1回/全2回)】
 ※後編は1月28日(金)に公開

フィルム部門 審査委員長 細川美和子氏に聞く

— 今回初めてフィルム部門の審査委員長を務められました。審査に当たり意識されたこととは
 ジェンダーや多様性への意識の高まりを受け、本年度は全部門の審査委員長と審査委員の選定に当たって、例年以上にダイバーシティーへの配慮がなされたと聞いております。優れた女性のクリエーターはこれまでに大勢いらっしゃいますが、ACC CM FESTIVALが1961年にスタートして以来、女性がフィルム部門の審査委員長を務めるのは初めてだそうで、お話をいただいた際にはそのことに驚きました。そしてそれぞれの部門の審査委員長がその年の審査委員を選出する任を担うのですが、今回は性別に限らず、より幅広い視点で物事を捉えながら審査を行いたいと考え、世代や職種もできるだけバラエティーに富んだ人選となるよう意識しました。20代で活躍している方にお願いしたのと同時に、広告業界に長年貢献されている方にも審査委員を務めていただきました。例えば小田桐昭さんはレジェンドと呼ばれながらも、現在もキレキレのクリエーティブ・ディレクターでいらっしゃいます。そのように、年齢の固定概念にとらわれないことも大切にしました。また、今回は制作会社のプロデューサーの方にも初めて入ってもらったのですが、阿部薫さんには名作誕生の現場に長年携わってきた立場からの知見をうかがいたくお声がけしました。もちろんメンバーの属性を多様にすることだけではなく、広告の歴史や文脈を十分に理解し、現在も広告制作や時代に深くコミットされている方にお願いすることを大前提としてこだわりました。そうすることで、広告制作に情熱を持って応募してくださった多くの方がリスペクトできる審査結果になるのではないかと。
 さらにフィルム部門の新たな試みとしては審査会の議事録の公開を提案したことが挙げられます。すでにブランデッド・コミュニケーション部門では実践されていましたが、審査結果だけでなく「この視点が良かった」「こういう理由で惜しくも届かなかった」など、本部門でも評価されたポイントやそこに至るまでの意見の積み重ね、各委員の考え方などもお伝えしたいと考えたんです。選定のプロセスをもっとオープンにできたら、今後の広告制作の役に立つ開かれた広告賞として、さらに価値が高まるかもしれないと思いました。
 この1年はコロナ禍や延期開催された東京2020大会などをきっかけに、常識がひっくり返るようなことが多く続きました。不安な状況ではありますが既存のルールから自由になれる時代と捉えることで、前を向こうとしている力も感じました。こうした思いのもと、審査基準については「今までの当たり前を変えているものを評価したい」と審査委員の皆さんにお伝えしました。映像表現でも手法でもいいのですが、今までにない視点をくれて、広告の可能性を広げ、更新しているものを選びたいという基準から審査を進めてまいりました。
— Aカテゴリー・グランプリの大塚製薬『カロリーメイト』※1をはじめ、大王製紙『アテント』などの受賞作品について
 グランプリの決戦投票などもありましたが、頭ひとつ抜けて強かった印象があります。商品がCMのコアにしっかりとある構造の中で、今の時代を描き切っている点が素晴らしいと絶賛されていました。「見せてやれ、底力。」というこれまでのシリーズと同じ言葉を使いながらも、コロナ禍の受験生の応援にとどまらず、世代を超えて多くの視聴者を前向きな気持ちにさせてくれた。社会性もコピーもクラフトのクオリティーも優れていて、視聴者としてテレビで見た瞬間に「これが2021年度のグランプリだと思った」という審査委員もいました。

【「見えないもの」をテーマに時代の捉え方をポジティブに変えた 】

 そして誰もが不安な日々を過ごしたコロナ禍を「見えないものに支えられた1年」と再定義し、世の中の重苦しい空気を希望に変える力がありました。つまり、広告を通して時代の捉え方をポジティブに変えた。その点が「当たり前を変える」という審査基準を十二分に満たすものでした。誰もが「見えないもの」と格闘した1年を象徴する傑作だと思います。広告はいわば予期せぬ出会いですので、視聴者へのサプライズプレゼントともいえますよね。本作は「こんな見方があったんだ」という宝物のような新しい視点を多くの人に与えてくれたのではないでしょうか。
 今回ご質問いただいた、ゴールドを受賞した大王製紙『アテント』のCM※2は私が担当した仕事ですので、公平を期すため審査会では発言権も投票権もなかったのですが、高齢化社会の課題にメッセージ性とユーモアを持って向き合ったクリエーティブや、大人用おむつへの見方を変えた点などを評価いただきました。東畑幸多さんが「今まで固定概念にしばられていた介護用品の広告を、ここまで社会的意義のある仕事にできると示した」と位置付けてくれたほか、「“おむつ”を“パンツ”という呼び方に変える力があり、これから介護をする側もされる側も楽になる」という声もいただき、制作チームの思いが届いたようでうれしかったです。
 アテントのオリエンでは共生社会の実現といったビジョンに加え、伴侶が倒れたら残された方も後を追う約束をしているご夫婦が実在するというお話や、家族で辛さを抱え込む方をひとりでも減らしたいという担当者の方の真摯な言葉が胸に刺さりました。最近はヤングケアラーという言葉も認知されてきましたが、高齢化社会や介護問題は中高年に限らず全世代に関わることです。介護をみんなの話題にして、困ったときには家族以外にも「助けて」と言えるムードを作っていくのは簡単ではありませんが、今後も今までの広告の枠組みにとらわれず、課題解決に取り組んでいきたいと思っています。
 審査会ではヤマトホールディングスの企業CMも時代性を切り取った作品として高く評価されました。カフェでの荷物の受け取りや処方薬の自宅への配達など、今を生きる人の悩みに寄り添った取り組みを描いたものです。企業の具体的なサービスを描くCMはともすれば説明的で記憶に残らないものになりがちですが、「未来より先に動け。」という意志のあるコピーと映像の視点に訴求力があり、想いを持って計算し尽くしたプロの表現として大好評でした。対照的にHARIBO『HARIBOゴールドベア』、日清食品『カップヌードル』、『さとふる』などのCMは時代性というよりは、普遍的なCMの力、表現力でお茶の間を楽しませた作品として支持を集めました。テレビで流れたら思わず振り向いてしまい、次に流れるのが待ち遠しくなる。なかでもカップヌードルの「8つの味」は従来の広告の枠組みを思い切り破っていて印象的でした。8種類の商品を一度に紹介するという発想が秀逸で、意外とどれも聞き取れるというサウンドデザインやクラフトにも驚きがありました。
※1. 大塚製薬『カロリーメイト』見えないもの篇(広告会社:博報堂/catch/ENOAD 制作会社:AOI Pro.)
森山直太朗の『さくら』をBGMに、コロナ禍の影響で部活動の大会が中止になるなど、不安を抱きながらも奮闘する受験生(加藤清史郎)と教師(飯塚悟志)の心の交流を描いた。 「見えないものと闘った1年は、見えないものに支えられた1年だと思う。」「見せてやれ、底力。」をキーワードに展開した

※2. 大王製紙『アテント』誰よりいちばん篇ほか11篇(広告会社:電通 制作会社:ギークピクチュアズ)
「もっといいパンツになる。」といったコピーのもと、草彅剛が紙パンツや介護、高齢化社会などについて自然体で語りかける姿を映した。フィルム部門ゴールドのほか、ブランデッド・コミュニケーション部門Bカテゴリーで総務大臣賞/ACCグランプリ、同部門Cカテゴリーでゴールドを受賞
細川美和子氏 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター/プランナー
2021年末に株式会社電通から独立。2022年クリエーティブ・ディレクター・コレクティブとして、(つづく)を設立。長く愛され続ける物語のあるブランド作りを目指す。これまでの主な仕事は大王製紙、東京ガス、サントリー、日本生命、グリコ、味の素、P&G、TOYOTA、日向市など。 カンヌゴールド、ADFESTグランプリ、ACCグランプリ、朝日広告賞グランプリ、日経広告大賞、フジサンケイグループ大賞、TCC賞など受賞多数。 審査員歴はACCフィルム部門審査委員長、 同ブランデッド・コミュニケーション部門審査員、TCC審査員、カンヌフィルム審査員など。
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