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BRAND OF THE YEAR 2021・CMヒットメーカー トークセッション 北田有一氏(株式会社電通)×細田高広氏(株式会社TBWA\HAKUHODO)


ブランド価値を高める広告作りとは

『BRAND OF THE YEAR 2021』では特別企画「CMヒットメーカー トークセッション」を実施。株式会社電通の北田有一氏、株式会社TBWA\HAKUHODOの細田高広氏をお迎えし、数多くのヒットCMを世に送り出しているおふたりにブランドが長く愛されるための広告作りやテレビCMの役割などについて語っていただいた。
(聞き手:CM総合研究所 代表 関根心太郎 収録日:2021年12月9日)
【 CM INDEX 2022年1月号に掲載された記事をご紹介します。】

関根:おふたりは長期的なブランディングに貢献するCMを多数手掛けていらっしゃいます。
北田:『ゼスプリ キウイフルーツ』のCMはマーケティング本部長の猪股(可奈子)さんをはじめクライアントの皆さんに「国民的に愛されるようなアセットを作りたい」とご提案して2016年に誕生したシリーズです。2020年度は作品別CM好感度で1位となり非常にうれしかった一方で、長く愛されるには一過性のブームとならないよう“攻めと守り”のバランスが重要だと感じました。そこで2021年は“守り”のフェーズと捉え、あえて大きな変化を加えずブランドイメージを定着させることを狙いました。
細田:ゼスプリのCMは本当に素晴らしいですね。いたずらに鮮度を求めない点に長期的にブランドを育てていくという覚悟を感じます。私が担当した中でいえば、商品のライフサイクルが長い自動車ブランドも広告を通して“顔”を作る期間が必要で、それが守りのフェーズに近い気がします。広告活動においてプロモーションもブランディングも等しくモノを売るための取り組みですが、「いつかは手に入れたい」といった憧れやブランドへの付加価値を長期的に作り上げることはCMならではの役割かもしれません。
関根:効果的なCMを作る上で、広告主とクリエイターの関係性は重要だと考えますが、いかがでしょうか。
細田:オリエン資料やブリーフィングシートに書かれたことのさらに一段深いレイヤーにある思想が重要だと感じています。商品の特徴やベネフィットではなく、「何のためにこの商品が存在しているか」というWHYの部分です。ブランドの存在意義は、船乗りにとっての北極星のようなものです。目的地さえ事業主とクリエイティブとが共有できていれば、方向を見失うことはありません。するとCMの表現もより自由になり、遊び心を盛り込む余裕や豊かさが生まれると思います。
北田:広告作りで特に重要なのはクライアントと話し合う時間なんですよね。クライアントとの対話の中で生まれたケミストリーやアイデアによってその広告がうまくいくか否かが決まってくる。本音を言い合えて、ときには無茶ぶりが飛んでくるような信頼関係が大切ですね。細田さんも言われたように最初から完璧なブリーフィングシートを作ることは難しいので、クライアントとのコミュニケーションの中で一緒に作っていくことが理想ですね。

商品の存在意義と社会課題がシンクロする地点を見極める(細田)

関根:CMでブランド価値と合わせて社会的なメッセージを伝える際に意識されていることはありますか。
細田:最近はそうしたテーマのお話をいただくことが多いですね。SDGsが掲げる17のゴールは指標として重要ではありますが、一歩間違えると「私たちはこのような取り組みをしています」とアリバイを証明するような表現になりがちです。上っ面だけのコミュニケーションは見透かされる時代、問われるのはビジネスとの関連性や企業の本気度にほかなりません。そういう意味で近頃は「18番目のゴールを作りませんか」と提案させていただいています。どんな商品も「社会をより良くしよう」という思いが出発点になっているはずなので、本質をたどった先には、ブランドの存在意義と社会課題がシンクロするポイントが必ずある。そこを見極め、理解した上でブランド固有のメッセージを発信することが大切だと考えています。
北田:この春展開したGUのCMはブランドのコンセプトである「自由」を軸に、不自由で不寛容な風潮をはねのけて輝いている方々を応援する企画です。社会課題をテーマとしたCMは説教くさくなりやすいのですが、広告である以上エンタメとして楽しめることは大前提です。爆笑を取るユーモアに限らず、心地よい読後感や感動などさまざまなアプローチがありますが、私はふたつの「違和感」を大事にしています。ひとつ目は誰かに説明しようとしたときにロジカルに話せない部分。そこを見て見ぬふりをしないようにしています。意外と自分の中で整理できていない疑問や引っ掛かりが表現のヒントになることが多いんです。もうひとつは表現としての「違和感」。真面目に伝えるのなら違和感があるくらいその姿勢を貫くだとか、違和感が残るほどふざける、圧倒的なスケールで目立たせるなどのようなことで、表現として突出した部分こそが人の心に残ると思うんです。そうした「違和感」の積み重ねがブランドのイメージを形作るのではないでしょうか。

世の中と仲良くなるために広告を何と掛け算するかがポイント(北田)

関根:これからのテレビCMの役割、有効な活用法とは。
北田:テレビ離れともいわれますが、欧米に比べると日本はまだまだテレビがマスに根強く支持されています。日本人は共感したい気持ちが強く、何事も社会全体で合意形成をしていきたいという性質がありますよね。そうした合意形成の場を作ることが、CMを含めたテレビの大きな役割だと思っています。今後はその特性がより明確になり、チャンスも広がるのではないでしょうか。これからは広告を何と“掛け算”するかがキーワードだと考えます。私たちクリエイターは広告を通して世の中の人たちとどうすれば仲良くなれるかを考え続けていますので、このスキルを他の領域に応用し、広告を他の分野と掛け合わせるお手伝いができればと思います。
細田:デジタル広告はひとりにひとつのメッセージを届けるといったパーソナル化が進んでいます。一方、ブランドの価値はブランドと個人の間で決まるものではなく、他者を含めた世の中みんなの意見で作られるものだと思うのです。情報を届けるだけのメディアはたくさんありますが、感情や意味、社会の気分などを広く共有する手段としてはテレビCMが今でも唯一無二の存在です。こうした“情報以外のもの”を届けるにはどうすべきかという発想を持つことでCM好感度にも良い影響を与えられるのではないでしょうか。また今後は「広告」という言葉が持つ文化的な側面にも目を向けていきたいですね。例えば『ポカリスエット』のCMを語ることは青春を語ることであり、ナイキやアディダスの広告はストリートカルチャーと切り離せません。こうなると、ブランドは強い。マーケティングを効率化するだけでなくカルチャー化することもテレビCMでは挑みたいと思います。

その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。