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Creator Interview 福部明浩氏(株式会社catch)前編


ブランドがど真ん中にあるCMを

2021年度のTCCグランプリ、ACCグランプリに輝いた大塚製薬『カロリーメイト』など、数多くのヒットCMを手掛けている福部明浩氏。日本マクドナルドの「家族といっしょに。」シリーズや、綾瀬はるからが出演する『UNIQLO』の「LifeとWear」シリーズといった話題作の狙いをはじめ、ブランドと生活者の思いに寄り添う広告作りについてお聞きした。
(収録:2021年10月12日)
【 CM INDEX 2021年11月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(前編)】
 ※後編は11月30日(火)に公開
— 2021年度のTCC、ACCでグランプリを受賞された大塚製薬『カロリーメイト』のCMについて
 カロリーメイトの受験生応援CMは2012年から担当しています。 「見えないもの」篇の企画の準備をしていた頃はコロナの状況が刻々と変化していて、いま受験をテーマに広告を作っていいものかと迷うこともありました。ただセンター試験の廃止など大学入試が大きく変わる年でもあり、逆に今年の受験生を応援しなくていつするんだ?ノーリスクのときにだけ応援するなんてブランドとして間違ってる。やろう!という結論に至りました。本作はこれまでの受験シリーズでは初となる「生徒と先生」をテーマにした企画です。大塚製薬さんへのプレゼンでは、コロナやマスクのない世界線を描く手もありますよとお伝えしたところ、井上眞社長から「うちの広告には同時代性がないとだめなんだ」というお話をうかがいました。カロリーメイトやポカリスエットは人間に必要な栄養や水分バランスから逆算して作られている普遍的な商品で、だからこそ時代と掛け算しないと、世の中と併走できないと。現実世界を描くことでリスクや制約が発生するのは承知の上で、非常時であっても時代とともに歩む覚悟をお持ちなのだと深く理解しました。
 最近はグループインタビューをしながら企画の軸を探っていくのですが、このCMの場合も大勢の先生や高校生の方々に学校生活や受験勉強についてオンラインで直接お話をうかがった上で、物語を組み立てていきました。TCCで受賞したのは「見えないものと闘った1年は、見えないものに支えられた1年だと思う。」という加藤清史郎くん演じる受験生の言葉です。普段からADの榎本(卓朗氏)とあれこれしゃべりながらCMを作ることが多く、このコピーも紙に書くほどではないけれど「見えないもの」がテーマかなとふと口にしたことから生まれたものです。ベタな言葉ではありますが、コロナ禍の1年を象徴するという意味で選んでいただいたのではないでしょうか。個人的には「うまくいかないときに、それでも続ける努力を、底力っていうんだよ」という先生のセリフも気に入っています。飯塚悟志さんの演技が素晴らしいのはもちろん、広告のコピーって“誰が言うか”が重要ですよね。最後の「見せてやれ、底力。」も先生が頑張っている生徒に言うから意味がある。主語を明確にした方がコピーはやっぱり強くなるなと思っていました。
 CM放送後は教え子への思いや今後の決意をつづったとある先生からのCMへのお礼の手紙をきっかけに、森山直太朗さんがCMソングの『さくら』をその学校の卒業生にオンラインで披露する企画も生まれました。コロナ禍が続く中で広告自体の意味や必要性を考えることもありましたが、こうした形でまわりまわって誰かを支える力になると分かり、救われたような気がしました。
— 宮崎美子さんらが出演した日本マクドナルドの「家族といっしょに。」シリーズが好評です
 日本マクドナルドの創業50周年を記念したCMで、これまでに放送した2篇とも実話をベースにマクドナルドと家族のつながりを描いています。もちろんフィクションでもCMは成立しますが、マクドナルドほど世代や性別を問わず誰もが原体験を持つブランドはありません。ブランドとお客さまの間に本物のドラマがあるので作り話は必要ないと考えたんですね。そこで企画に先立ち、さまざまな世代のお客さまに“マックの思い出”に関するインタビューを行いました。制作チームでそれぞれの思い出を話し合ったときも、非常に盛り上がりましたね。第1弾CMは「お姉ちゃんがハッピーセット以外のものを頼んでいるのを見て、衝撃を受けました!」というデザイナーの小野ひかりさんのエピソードをもとにしています。みんな自分にとって強烈な出来事は何年経っても鮮明に覚えているんだなぁと驚かされました。
 宮崎美子さんが中学生と現在の姿を一人二役で演じるCMは「デート中は恥ずかしさのあまりビッグマックを食べられず、ずっとコーラを飲んでいた」という60代の女性の体験談をもとに制作したものです。宮崎さんは年齢を重ねた上での存在感に加え、中学生を演じても嫌みのない魅力をお持ちの方だと思い、出演をお願いしました。宮崎さん演じる女性はかつてのデートを懐かしみながらも、気を遣わずに目の前でビッグマックを食べられる夫との人生を選んだことは間違っていないと感じているんですね。夫役の村上ショージさんが窓ごしに宮崎さんと顔を見合わせてパッと手を広げるしぐさはアドリブですが、芸人さんならではの瞬発力に感動したのと同時に、この「パッ」が今の彼女の幸せを描くピークの場面になると確信しました。また50年前に青春時代を過ごした方だけでなく、幅広い世代にこの50年の意味を感じていただけたらと思い、「もう少しビッグマックが小さかったら、僕は今ここにいなかったわけだ」といった孫の視点も加えています。
 CMの冒頭では50年前の銀座の街並みや1号店の店舗をセットで忠実に再現しました。このシーンに現実味がないとCM全体がうそっぽく見えてしまいますので、視聴者を一瞬で当時の世界に引き込むべく、マクドナルドの看板や包み紙から宮崎さんとエキストラの衣装やヘアメイクなど、細かい部分まで徹底的に作り込みましたね。こうしてひとりの女性が歩んだ人生や家族との時間をマクドナルドと重ねて描くことで、50年という歳月を価値化し、マクドナルドがこれまでもこれからも、すべての人のそばにあることを表現しています。
福部明浩氏 株式会社catch クリエイティブディレクター/コピーライター
京都大学工学部卒。1998年博報堂入社。2013年catchを設立。主な仕事に大塚製薬『カロリーメイト』、日清食品『どん兵衛』、キリンビール『淡麗グリーンラベル』『麒麟特製レモンサワー』『ホームタップ』、日本マクドナルド、ユニクロ、QUOカードpayなど。ADC賞、テレビ広告電通賞、ACCグランプリ、TCCグランプリ、ギャラクシー賞など受賞多数。著作に絵本『いちにちおもちゃ』など
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。