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Creator Interview 細田高広氏(TBWA\HAKUHODO)後編


言葉の力でブランドの意義を伝える

2020年9、10月度のCM好感度調査で総合1位に輝いた日産の企業CMなど、さまざまなヒットCMを手掛ける細田高広氏。広告コミュニケーションのほか、企業のビジョンや事業開発などグローバルブランドを中心に幅広い領域で活躍を続けている同氏に、広告制作におけるコピーライターの役割やこれからの広告のあり方についてお話をうかがった。
(収録:2020年12月4日)
【 CM INDEX 2021年2月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(後編)】
— 広告コミュニケーションにおいて、コピーライターの役割をどのようにお考えでしょうか
 博報堂入社当時はアートディレクターブームだったこともあり、ビジュアルが先に決まって、それを機能させるための言葉を書くことが多かったんです。ですから、コピーを広告の中のひとつのパーツとして捉えていました。その後2011年からロサンゼルスにあるTBWA\CHIAT\DAYでグローバルブランドの広告に携わるうちに、言葉に対する考え方が大きく変わりました。このオフィスには2019年に引退されたリー・クロウという伝説的なクリエイティブディレクターがいたんです。彼はスティーブ・ジョブズの古くからの友人だったこともあり、2人で「アップルはどんな会社になっていきたいのか」などとブランドそのものの行く末を話し合っていました。そのような環境から「Think different.」や初代マッキントッシュの伝説的CM「1984」が生まれたのです。つまり、広告のためにその場その場でコピーをひねり出すのではなく、まず企業の軸となる言葉を作り、それを広告として世の中に浸透させる。同じくTBWAが手掛けたアディダスの「IMPOSSIBLE IS NOTHING.」も同様で、ブランドや時代に根差した言葉と思想は年月を経ても古びるどころか企業の文化資産として生き続けます。
 これからのコピーライターにはCMのコンテやグラフィックのコピーを書くだけでなく、この会社はなぜ存在するか、何を目指しているかといった企業哲学をワーディングする役割がますます求められると考えています。世界的に、例えばカンヌなどの広告賞でもクリエイティブへの褒め言葉が変化しています。以前はcool、smartといった表現やアイデアを賞賛する形容詞が中心でしたが、最近よく耳にするのは“meaningful”という言葉です。美しさや面白さや話題性だけでなく「世の中にとって意味があるか」という視点が広告の指標として重視されるようになったことを強く感じます。今後は広告を企画する前の段階で、事業やブランドの存在意義に立ち返り、社内外問わず共有できる言葉を設計しておくことが欠かせないのではないでしょうか。
 ユニクロのグローバル広告も担当させていただいていますが、柳井正社長を交えてブランドのあり方や、生活や洋服の未来を議論する機会があります。そうした場で思想を根本から理解すると、どんな商品広告にもブレないブランドらしさを注ぎ込むことができる。目先の市場環境に右往左往せず、長期的に最適なコミュニケーションを作れるという手応えを感じています。
— これからの広告作りについて
 社会と世界を意識したいと思っています。最近はYouTubeやSNSからヒットコンテンツが生まれることも珍しくありませんが、その人気を全国区にするのはテレビですよね。物事をメジャー化する装置としてこれほど影響力の強いメディアはない。だからこそ偏見や差別を助長する広告は控えるべきですし、逆にいうとアップデートした価値観をマスに伝え、社会の当たり前を変えることもできる。むやみに社会課題に便乗することは避けるべきですが、社会に良い影響を与えるという視点を持って広告を作る必要はあると感じています。
 世界に目を向けるという意味では、事業規模にかかわらず世界中が共鳴する太い言葉や物語を発信できれば、日本発のグローバルブランドがもっと生まれる可能性があると思うんです。ですからこれからも企業のビジョンや事業開発などには積極的に取り組んでいきたい。コピーライターやクリエイティブディレクターという肩書きに捉われず、時代の動きに合わせて仕事の領域を柔軟に拡張し、企業のストーリーテラーとして意味のあるブランド作りのお手伝いができればと考えています。
細田高広氏 TBWA\HAKUHODO エグゼクティブクリエイティブディレクター
2005年博報堂に入社後、TBWA\CHIAT\DAY(米ロサンゼルス)を経て現職。自動車・アパレル・スポーツ・金融・ビューティーなど多くのグローバルブランドのクリエイティブリードを務める。広告のほか、企業のビジョン開発、事業・商品・サービスのコンセプト開発を担ってきた。これまでにカンヌ金賞、ACCグランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストなど国内外で受賞多数
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。