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電通CMクリエイター 見市沖のこれからのCMの話をしよう【鈴木晋太郎氏・後編】第2回/全2回


予定調和を超えたチャレンジが必要

電通のCMクリエイター・見市沖氏がCM制作の最前線で活躍するクリエイターと、これからのCMのあり方を探る連載企画。第2回の対談相手は、深田恭子さんらが三姉妹を演じる『UQ』や橋本環奈さん出演の日清食品『カップヌードル』など数多くのヒットCMを手掛けてきた電通の鈴木晋太郎氏。後編では、鈴木氏の考えるヒットCMの要素、これからの広告業界に必要なことについてお話をうかがった。(収録:10月8日)
【 CM INDEX 2020年12月号に掲載された記事を2回に分けてご紹介します。(第2回/全2回)】
— どんな要望にも応えるには長尺コンテンツを作る筋力が必要
見市:今後やってみたいことはある?
鈴木:ひとつのことを極めるというよりは、クライアントの課題にいつでも最適な企画を提案できるようにあらゆる引き出しを作っておきたい。だから、やりたいことや将来のビジョンを自分で決めすぎないようにしています。ただ引き出しのひとつとして、映画やドラマといった長尺の映像を作れるようになりたいですね。広告業界全体にも長尺のコンテンツを作る筋力が足りていない気がして。
見市:CMとは競技が違う感じもするしね。
鈴木:コピーも小説も同じ言葉であるのと一緒で、30秒CMも2時間ドラマも動画コンテンツという点では同じだと思うんです。クライアントがどちらの手法を選ぶのかという問題で、長尺の動画を作ろうと思ったとき、その要望に応えられる人が広告業界にどれくらいいるんだろうと感じています。
見市:たしかに広義でコンテンツを捉えたときに「広告会社の人ならどんなコンテンツも作る能力がある」とは思われていないかもしれない。
鈴木:だから動画コンテンツくらいは、いつどんなものを要求されても返せるよう準備しておきたいと思っています。
— CMを面白くするために新しい表現へのチャレンジを続ける
鈴木:マーケティング業界や広告業界を見渡しても、今のところCM以上に人々の心に届いている広告メディアはないような気がします。
見市:セグメントをしたターゲットに向けたウェブ動画のキャンペーンも手掛けたことがあると思うけど、その効果はどうだった?
鈴木:見える形のスケールでは、CMほどはっきりと手応えを感じられないというのが正直な肌感ですね。
見市:丁寧にバントヒットを打っていくようなものだもんね。ツーベースヒット以上を確実に打つには、やっぱりCMが一番いいと思う。
鈴木:CMにはメディアとしての価値よりも、表現に対する危機感がありますね。今の状況が続けば、洗練されたごく少数の企業広告と顧客獲得だけを目的にしたレスポンス系広告という極端な二極化の中で、CM自体の価値が下がっていく気がしています。
 学生時代に参加していた即興音楽のワークショップで、講師を務めていたバイオリニストの横川理彦さん※が突然ホワイトボードに「謎」って書いたんですね。で、「謎=魅力」と続けて「『面白い』の正体は謎だから」と。即興音楽はジャズよりも圧倒的に自由なスタイルで、全員が楽器を手に輪になって「よーいスタート」で好きなように音を出していくんです。頭の中で出したい音を考えているうちは面白くならなくて、他の人の音に反応しながら無心で楽器を鳴らしているときの方が魅力的なセッションになる。もちろん必要なテクニックが入った上での演奏ではあるんですけど。
見市:どう展開するのか分からない生ものだから、見ている人にとっても面白いんだろうね。
鈴木:最近はどうしてその表現になったのか、プレゼンが透けて見えるCMが多すぎると思うんです。そういう類いのものは全然魅力的じゃない。僕が学生だったら「広告ってつまらないな」とCMに興味を抱かない気がする。だから多少疎まれたとしても、CMに対してチャレンジングなことをする人がいた方がいい。それはセッションみたいに謎を生み出す作り方とか、コピーを一切入れないといったCMプランナーの固定概念にとらわれないクリエイティブとか、なんでもいいと思うんです。テレビ番組が面白くなくなったと耳にしますが、CMも同様で新鮮さや驚き、エッジの効いた表現が減っていますよね。
見市:いくつもの制約がある中で、いかにチャレンジしていくか。作り手としてはそこが醍醐味だし、その先に面白さが生まれる。たしかに自分たちが10代の頃に感じていた「こんなCMもあるんだ」という衝撃は少なくなっているかもしれないね。岡康道さんのCMも、映像は暗くてセリフも少ないのに心を震わせるような迫力があった。そういう骨太で存在感のあるCMに、今はなかなか出会えない気がする。
鈴木:どんなタイプのCMであれ、できれば予定調和なものは作りたくないんです。僕らの世代が新しい表現にどんどんチャレンジしていけば、CMはまだまだ面白くできるかもしれない。自分の枠を決めず、ひとつひとつのCMに真剣に向き合っていきたいと思います。
※ 1957年鳥取県生まれのバイオリニスト。電子楽器と各種生楽器を併用する独自のスタイルで、海外でのコンサート・プロジェクトも多数。ソロアルバム制作、即興を中心としたライブなど多方面で活躍中。
— アイデアの引き出しの中から課題に応じて最適な案を提示
見市:これまでに手掛けたCMを振り返って「人から好かれる表現ができた」って手応えを感じた仕事があったら教えてもらえるかな。CM作りの本質が見えたというか。
鈴木:まだないかもしれないですね。
見市:本当に?
鈴木:自分がCDじゃない案件もあるので。
見市:これからなんだ。とはいえ、多くのCMを企画する中で、自分の筆が走りやすいとか、SNSで受けるだろうなっていう得意なゾーンはあるでしょう?
鈴木:自分はニッチなものが好きなので、世の中と合わないんですよ(笑)。だから一番筆が乗った企画が採用されることはまずないですね。慣れないながらもどうにか試行錯誤して作ったものの方が意外と褒められるんです。
見市:自分と世の中の温度差を客観的に見極める目線があるのはいいね。あと感心するのは、手掛けるCMがどれもまったく色が違うってこと。気を付けないと無意識のうちにトーンが似てくることもあると思うけれど。
鈴木:似たようなパターンになるのが嫌なんですよね。だから自分がよく作りそうな表現は意識的に避けるようにしています。篠原(誠)さんも割とアウトプットにバリエーションがある人なので、その影響もあるかもですね。
 アイデアの引き出しを無限に持った上で、与えられた課題に応じて最適な案を提示できる方が職人らしくてかっこいい気がしています。その引き出しの中から、クライアントや視聴者、出演者などあらゆる立場の人にとって「役に立つ」CMを作っていきたいです。
鈴木晋太郎氏 株式会社 電通 CMプランナー/コピーライター
1981年生まれ。東京大学大学院工学系研究科を修了後、2007年電通入社。情報システム局、営業局を経て、30歳でCMプランナーに。主な仕事に日清食品『カップヌードル』、日清焼そばU.F.O.、花王アタックZERO、Spotify、UQモバイル、湖池屋プライドポテト、タウンワーク、SOYJOY。ACCゴールド、TCC賞、ギャラクシー賞など受賞多数。

見市沖氏 株式会社 電通 クリエーティブディレクター/コピーライター/CMプランナー
2006年電通入社。近作はタイムツリーはじめました、ポッキー、パズドラなど。TCC新人賞、ACC賞、国際PRゴールデンアワードなど受賞多数。「世界に愛されるブランドをひとつでも多く増やす」がモットー。
その月のCM業界の動きをデータとともに紹介する専門誌です。