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vol.118 あの頃わからなかった凄さ


パナソニック/マックロード「夫婦げんか」篇
1988年オンエア開始
食卓で男性(泉谷しげる)と妻が口論していると、寝たはずの娘と息子に家庭用ビデオカメラ『マックロード』で撮影されていることに気付き、作り笑いでごまかす内容。「撮る見る カンタン」をコピーに展開した。

【主な制作スタッフ】
広告会社:博報堂 制作会社:シェフ 企画・コピー:妻鹿信彦/垂水佐敏/萩原良治 制作:内嶋至/垂水佐敏/香月賢人 PM:大本仁美 演出・編集:垂水佐敏 撮影:平野力 照明:湯谷恵次 美術:長沢佑好 録音:伊藤一男 音楽:西岡千恵子 スタイリスト:田代みゆき 出演者:泉谷しげる/橋本麻理子/金子成美/保坂正臣
 パナソニックのマックロードのCMが懐かしい。酔って帰ってきたパパを泉谷しげるが演じている。その勢いか、夜中に夫婦喧嘩になってしまう。その時、視線に気がつく。ふすまの奥から寝たはずの子どもたちがビデオカメラをこっちに向けて回していたのだ。夫婦は作り笑いで喧嘩をやめる。他愛のないよくあるシーンだ。ライバルのソニーが垢抜けた世界観で尖ったCMをやっていたのと対照的に、どこか頑なに、生活感のあるものを描くと決めている。それが当時のパナソニックのCMの個人的な印象だ。ナショナルのお店とユーザーの関係がブランドの根幹にあるからだろうか。どこかあの頃のホンダとトヨタの関係にも似ている気がする。日本の風景をほとんど描かないホンダと、タレントを使いドメスティックな表現を好むトヨタ。当時は見事にそこに線があった。そのせいか、当時の若い自分は圧倒的にソニー派ホンダ派だった。ウォークマンの衝撃をもろに受け、ASHIMOに度肝を抜かれた世代というのもあるが、ブランドの描く世界の違いがそうさせていた気がする。結婚もしていなかったし、家から離れることの方にしか興味がなかった。そんな自分にはパナソニックの描く世界はなかなか共感しづらいものだった。
 それから何十年かして、あらためて当時のこのシリーズを見直すと、若かった頃には気がつけなかったよさがあるなあと感嘆する。家族のこの匂いが心地よいのだ。普通の日々を描く目線がどこか優しいのだ。落語に通じるものがある気がする。カメラの性能を告知することより、この匂いを伝えることにカロリーを使っている。その覚悟がとても素敵だ。子どもでも使えることを無理なく描き、ハイスペックな商品に安心を装備させる。戦略的にも見事だと思う。
 今、僕たちはブランドの色をここまで気合を入れて守っているだろうか。左脳で言語化されたものをブランドのコアと呼んで、意外とどこにでもあるものを大事にしていたりしないだろうか。企画をブランド訴求と商品訴求とに大きく分けて、なぜだかブランド広告は余裕のある時にやればいいから、なんて言って大事なものを手に入れることを早めに諦めていないだろうか。商品広告でブランドを作るにはどうすればいいかということをほぼ議論せずに企画していないだろうか。あの頃興味の持てなかったCMは、そんなことを今の僕に言っている。
「高崎卓馬のCM温故知新」 CM INDEX 2023年4月号掲載